Interview
トラウト・フォーラムの実力は、確実にアップしています。
トラウト・フォーラム事務局長 木住野勇
─今年でトラウト・フォーラムは設立十年目を迎えます。設立当初から比べる と、日本の鱒釣りの状況は明らかに変わりました。トラウト・フォーラムは「よ りよい釣り場作り」を活動の理念に据えているわけですが、それを実現する手順 として様々な方策を推進してきました。キャッチ・アンド・リリースの釣り場作 りもその一つです。以前は言葉の意味を理解してもらうだけでもたいへんだった のに、今や全国の随所に実際にキャッチ・アンド・リリースの釣り場が実現し、 逆に漁協や行政から釣り人側に、キャッチ・アンド・リリースの釣り場を作るた めの相談が持ち込まれる状態です。また、トラウト・フォーラムが直接関わらな くても、各地で釣り場に関するセミナーなどが活発に開催されるようになってき ています。これらは、社会に対する釣り人の発言力が高まってきたことの現れと も言えるでしょう。
で、トラウト・フォーラムが具体的に関わる活動はというと、『トラウト・フ ォーラム通信』で随時報告されているように、とくにこの一二年、特定の地域の 釣り場作り(キャッチ・アンド・リリース区間の設定など)よりも、漁業制度、 行政制度を釣り人の視点から見直そうという方向に、活動の焦点が移行してきて います。この変化について、事務局の立場から説明してください。
木住野
活動のスタイルが変わった理由の一つには、以前とは比較できないほど に、トラウト・フォーラムの知名度が上がってきたことが挙げられます。以前は シンボル的なテーマがないと、釣り人が発言できるチャンスがなかった。なにも 素地がない状況でしたから、無理にでも花火をあげる必要がありました。それが キャッチ・アンド・リリースであり、セミナーなどであったわけです。それが、 年を経るごとにケーススタディが増えノウハウも蓄積され、トラウト・フォーラ ムが直接関わらなくても、各地で釣り人の自主的な活動が行われるようになりま した。
そうなってはじめて、釣り人にとってより根本的な問題に、トラウト・フォー ラムとして取り組むことができるようになりました。つまりそれが、漁業制度の 釣り人の視点からの変革です。制度自体が変わらないと、せっかくがんばって局 地的に「よい釣り場」を作っても、けっきょくは対症療法のようなモノで終わっ てしまう。そうではなくて、現状の「漁場」、つまり私たち釣り人からすれば 「釣り場」をよくするために、制度そのものを釣り人側に向けていくことが、大 切なんです。「釣り人の権利」を実際に制度としてカタチにしようじゃないか、 そのためにトラウト・フォーラムのネットワークを活かそうじゃないか、という ことです。
─具体的にいうと、どのようなことでしょうか。
木住野
今の日本の漁業制度のもとでは、たとえば私たちが釣り場管理に関する 貴重なデータを入手できたとしても、それを伝える窓口がありません。あるいは 単純に、釣り人が釣りに出かけるときに、都道府県単位で釣りのルールをとりま とめている機関がないために、その釣り場のルールを聞くべき相手がいない。つ まり、いったい誰が「釣り場」を管理していくのかが明らかでない。釣り人が 「釣り場」をよくしたいと考えたときに、それをどこに言っていけばいいのか を、私たち釣り人自身が考えなければならない時期にきていると思います。そう いった窓口を作ることに私たちが関わっていかなくてはならない。
これまで日本の内水面においては、私たち釣り人の存在は、制度上ほとんど無 視されているに等しいのです。全国に一千万人以上いるとされる釣り人が、法律 上はほんのオマケにすぎない。逆に言えば、制度が変われば、釣り人の立場が劇 的に向上するのは間違いない。そして、そういった活動にこそ、トラウト・フォ ーラムが携わるべきだと思います。昨年、水産庁の内部が主催する勉強会に、ト ラウト・フォーラムのメンバーが要請されて参加しました。また、各地の地方自 治体から、釣り場作りに関してのアドバイスを求められることも最近は少なくあ りません。トラウト・フォーラムは、日本の内水面の釣り場を変革させていくシ ーンの中で、年を追うごとに着実に発言力と存在感を増しています。
釣り人への窓口として都道府県の水産課が果たす役割に期待しています。
─現状の場合、例えばどのような機関が釣り人への窓口になりうる可能性がある のでしょうか。
木住野
トラウト・フォーラム事務局はここ数年、実際に釣り人の側に立って、 より良い釣り場管理を進めてくれる公的機関がどこが適当なのかを検証してきま した。各都道府県単位で釣り場を管理できる可能性がある機関を考えると、水産 試験場、都道府県の水産課、都道府県の漁業組合連合会(漁連)などがあげられ ます。この中で、各漁協には漁連へ未加入の組合もあるので、漁連が中心になる ことは難しい。本当は水産試験場がもっと遊魚のために関わってくれるのがいい のですけれども、現状の制度では水産試験場が釣り場の管理のためにあれこれで きる状態ではない。その他、色々な要素を考えると、釣り人に対する窓口には、 都道府県の水産課がもっとも適しているのではないかと考えています。たとえ ば、私たちが、漁業権のない釣り場に出かける際に、釣りのルールをどこにたず ねるかと言えば、都道府県の水産課しかありません。釣り人は釣りをする際に、 漁業権があるないに関わらず、各都道府県の内水面漁業調整規則を守らなくては なりませんが、その規則を管理しているのは都道府県の水産課です。釣り場を担 当する機関がない以上、もっとも近いスタンスにある既存の機関が代行するのが 妥当でしょう。ですから、都道府県の水産課には、トラウト・フォーラム事務局 としても、一釣り人としても、今後、非常に期待感をもっています。
ここ数年ずっと、行政はことあるごとに、今の「内水面漁業」は釣り人の存在 を抜きにしては考えられない、と発言しています。にもかかわらず、行政から釣 り人に向けてのサービスはあまりに少なすぎる。都道府県によっては「遊漁のし おり」のようなものを出版しているところもありますが、多くの都道府県の場 合、都道府県内の「漁場」を説明する文書は、一般の釣り人にとっては、ほぼ理 解することが不可能に近いような代物です。漁業権を許可するための資料が基本 ですから、一般の釣り人に分かりやすい必要はないんですね。
─今の状態を変えるために、釣り人が具体的にできることはありますか。
木住野
トラウト・フォーラムでは、各地のトラウト・フォーラム会員からの協 力を得て、今年度、「全国の漁協と漁場の一覧リスト」を作成しました。この冊 子は2000年度のトラウト・フォーラム会員に配布されます。交通網が発達して、 釣り人があちらこちらの釣り場に出かけている状態なのに、「どの漁協がどこの 川や湖を管理しているか」を、全国的に網羅してまとめた資料はどこにもありま せん。釣り人がある釣り場に行こうとしても、わざわざそこを管理する漁協を探 して、問い合わせて、現地で遊魚券の売場を探さなければならなかった。都道府 県の水産課に聞いても、先ほども言ったように、一般の釣り人には分からない答 えしか出てこないケースが多かったのです。この「全国の漁協と漁場の一覧リス ト」は、まだまだ完成度は低いかもしれませんが日本初の全国版の資料です。
─そのような資料は、本来であれば公共の機関が作成するべきものですよね。
木住野
そのとおりです。でも今の日本には漁場ではなく釣り場という発想で川 や湖を管理する公的機関がなにもない。このまま放置しては、悪くはなっても良 くなることは永久にありません。だから、私たち釣り人の方から、自分たちはこ こまでできるよ、と作成したということです。いわば利用する側から管理する側 へ歩み寄ったのです。こういった資料を自ら作成することが、自分たち釣り人は 釣り場に関してこれこれこういうことを求めているんだ、というニーズを各方面 にアピールするための第一歩になります。
今、全国には、マス類を対象にしているところだけでも700近い数の内水面漁 業協同組合があります。これらの漁協がそれぞれ管理しているる釣り場のデータ (川や湖の名称、エリア、対象魚、遊魚規則など)をすべて調べるのは容易なこ とではありません。しかも、データは変わる可能性があります。今後この「全国 の漁協と漁場の一覧リスト」の精度を高め、更新していくには、トラウト・フォ ーラム会員の全国に広がるネットワークの力がぜひとも必要です。会員の皆さま は、ぜひいつも行っている釣り場のデータを事務局まで教えてください。このよ うな活動は一見地味ですが、私たち釣り人の発言力を向上させ、結果としてより 楽しめる釣り場を作るために、とても有効な活動です。
そもそも「漁場」なんて言っていますが、内水面の場合、生活のための職漁が 行われている場所は限られています。職漁がまったく行われていないエリアにも 漁業権があり「漁場」という発想で各漁協に川や湖の魚の管理が任されているこ と自体、一般の釣り人ばかりか、本当に職漁を行っている人にとっても良い状態 ではありません。職漁を行う場は「漁場」、リクレーションのための釣りを行う 場は「釣り場」として、それぞれを別々のシステムで管理する必要があるのでは ないでしょうか。
トラウト・フォーラム・ビデオの第三段を
近々にリリースします。
─トラウト・フォーラムとして2000年度には他にどのような活動を予定していま すか。
木住野
トラウト・フォーラムは、魚の再生産ができる釣り場を作りたい、とい うことを活動目標の一つにおいています。再生産ができる釣り場を作るために、 キャッチ・アンド・リリースをして魚が残る釣り場を作ることが第一段階だとす れば、その残った魚をどう活かすか、が第二段階になります。いま栃木県の水産 試験場が、人工産卵場についての研究を進めています。川底が荒れていて、通常 では自然産卵ができないような場所でも、人工産卵場を作れば、自然産卵ができ る。そのことをデータをとりながら実証していく研究です。もちろん、どの川で も人工産卵場を作ればいいというのでは決してありません。残った魚を再生産さ せる一つの方法として、こういう発想もあります、ということです。
トラウト・フォーラムは、栃木県の了解を得て、この人工産卵場研究の状況を ビデオに収め、編集する作業を進めています。場所の選定から大きさ、作るタイ ミング、効果などを釣り人の視点から具体的に映像に作り上げていく作業です。 このビデオをトラウト・フォーラム・ビデオの第三弾として、関係各方面に配布 していく予定です。これまでは、各都道府県単位でせっかく様々な研究をしてい ても、その成果を他の都道府県に伝える媒体がありませんでした。横のつながり がないために、充分にデータを生かせない。だからその役割をトラウト・フォー ラムが担おうということです。水産試験場は県の機関ですから、そこの研究に釣 り人個人が関わろうとしてもできません。トラウト・フォーラムという固まりが あったからこそ、こういったビデオ収録が実現しました。また、このようなビデ オ制作は、営利目的ではおそらく収支が取れないでしょう。会員の会費で運営さ れ、会員の積極的な労力の提供が得られるトラウト・フォーラムだから可能にな ったことです。どこそこの特定の釣り場のシステムを変えよう、という活動とは 別の次元で、魚を増やしたいという思いは、釣り人なら誰しもが共通して持って いるものです。そのための一つの試みをトラウト・フォーラムが広報するのはと ても有意義なことだと思います。
最近トラウト・フォーラムの活動が見えにくくなったという声を耳にすること があります。たしかに花火を打ち上げてとにかく実績を作ろうという以前のスタ ンスから考えると、今は表に出てくる情報は少なくなっています。けれど実際 は、トラウト・フォーラムは以前とは比較できないほどに、実力を増していま す。釣り人の意見団体としての機能もはるかに強力になっています。『トラウ ト・フォーラム通信』には掲載されない情報が実は非常に多くあります。水面下 でとても活発に物事が推移している状態です。事務局としての作業量もかなり多 くなっています。会員がなぜ会費を払ってトラウト・フォーラムに参加している のかを考えると、会費を払うことで目に見えるサービスを受けたいというより も、総合的に釣り場の全体が良くなる方向に向かうことにおいて、会員自身に結 果がフィードバックされてくることを期待されているのだと理解しています。事 務局を預かる立場としては今はきつい状態ですが、この時期を越えないと、次の 段階に向かえないと考えています。どうぞ今後も会員の皆さまのご協力をよろし くお願いします。(聞き手・まとめ/堀内)
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