釣り場作りのためのシミュレーション入門

第9回 放流と経費                       米澤 純爾 (東京都)



 「魚がもっと釣れるようにジャンジャン放流してくれ!」と切望される釣り人 も多いであろう。魚があまりにも釣れないので、放流に頼るしかないと考える気 持ちも理解できないではない。しかし、放流には経費がかかるため、内水面漁協 としては入漁料にみあった数しか放流できないのも事実である。そこで、今回は 放流と経費の関係について検討してみたい。

 はじめに、「入漁料を払っているのに釣れない」とお怒りの貴方のため、いっ たい何尾釣ればもとがとれるのかを考えてみよう。よくあるケースとして解禁直 前に行われる、いわゆる成魚放流を取り上げることにする(成魚放流といっても 実際には未成魚が主体となることが多いようである)。

 今、体重約200gのニジマスあるいは体重150gヤマメが放流されたとする。そ れらの魚を養殖業者から購入すると相場にもよるがおよそ1尾当たりニジマスが 150円、ヤマメが240円前後である。従って単純に考えると、入漁料が1000円であ ればニジマスを6尾、もしくはヤマメを4尾釣ればほぼもとがとれるという計算に なる。但し、内水面漁協が放流を行うにあたって、放流作業従事者への日当や入 漁券の作成費などが必要であり、放流以外にこれといった事業のない漁協では、 入漁料から漁協職員の人件費や施設の維持管理費を支払うことになる。それらを 全て含めて諸経費と呼ぶことにすると、入漁券の販売額から諸経費を除いた額が 放流魚の購入費に当てられる。

 入漁券販売額に占める諸経費の割合を諸経費率と呼ぶことにすると、図1に示 したように諸経費率が高い漁協ほど、入漁料1000円当たりの放流数は少なくな る。例えば諸経費率が5割を占める漁協では1000円の入漁料のうち500円しか放 流魚購入費に充当できないため、ニジマス3尾もしくはヤマメ2尾しか購入でき ない。これを釣り人が全部回収できるかというとそうもいかない。放流魚は人に 釣られるだけでなく、野鳥などの動物に捕食されたり、釣り場外へ移動して釣り の対象にならないものがでる。従って1000円程度の入漁料であれば成魚放流され た魚のみについてみれば、ニジマスが2、3尾またはヤマメが1、2尾釣れれば よしとすべきであろう。但し、放流数の多い漁協では諸経費率が低めに抑えられ るため、もう少し尾数が増えることも考えられる。

 解禁期間中に毎日、上記尾数だけコンスタントに釣れればそれなりに納得され るむきもあろうが、実際には解禁直後に釣り人が集中し、短期間で魚が減少して しまうのが多くの釣り場の現状であろう。図2に放流魚の生残数とCPUE(1人1 日平均釣獲数)の推移に関する試算例を示した。この例では解禁直前に1万尾を 1度に放流する場合(一回放流)と、解禁直前と解禁後100日目にそれぞれ5千 尾ずつ放流する場合(二回放流)の二通りを想定している。どちらも解禁期間中 の延べ利用者数は4200人であるが、放流日から20日以内に釣り人が集中するよう に設定している。

 一回放流ではCPUEが1尾以上となる期間が70日程度しかないのに対し、2回放 流では約2倍の期間となり、放流回数を増やすことにより、漁獲を分散させる効 果が期待される。多回放流は管理釣り場では普通に行われている方法であるが、 釣獲数の平準化を図るため一般河川釣り場においても積極的な導入を期待した い。

 次に、稚魚放流を行う場合、どのサイズで放流するのが得かを考えてみよう。 今、ある養魚場に図3(下図)のような成長を示すヤマメがいるとする。図3 (上図)は解禁日に放流魚が1万尾残っているようにするには、各サイズの稚魚 を事前に何尾放流すればよいかを示している。ここではヤマメの日間死亡係数 (自然死亡係数+流下係数)が0.005、0.007、0.009の3種類の河川を想定して いるが、これらの日間死亡係数は年間の生残率に換算してそれぞれ、16.1%、 7.8%、3.7%に該当する。なお、この試算では話を単純化するため、4g〜150 gのサイズ内では放流されたヤマメの自然死亡係数や流下係数に差がなく、放流 後の成長は養魚場と同様であると仮定している。また、このヤマメが1.2才にな るときが解禁日に当り、解禁日まで放流魚は全く釣獲されないものとしている。

 図3から、小さいサイズで放流するほど放流数が多く必要であること、また同 じサイズでも放流後の死亡係数が高い河川ほど多くの稚魚を放流する必要のある ことがわかる。どのサイズで放流するのが得かは、放流魚購入費(=必要放流数 ×放流魚の購入単価)で比較すればよい。表1に解禁日に1万尾生残させるため に必要なサイズ別放流数と放流魚購入費を示した。これから日間死亡係数が 0.007(年間生残率7.8%)では4〜150gの範囲の魚については、どのサイズで 放流しても放流魚購入費にそれほど大きな違いは生じないが、死亡係数がこの値 より低いほど、小型サイズの稚魚を放流した方が得であること、逆に死亡係数が 0.007より高い場合は解禁直前に1.2才魚(150gの魚)を放流した方が得である ことが分かる。

 ここでは非常に単純な想定で検討したが、実際には放流サイズによって生残率 が異なることや、放流魚と養殖魚では成長が異なることなどが予想される。興味 がおありの方は、様々な条件の釣り場において、どのサイズで放流するのが経費 面で得かをお考えいただきたい。

表1 解禁日に1万尾生残させるために必要な放流数と経費

放流サイズ

放流魚

購入単価

(円/尾)

M+V=0.009

M+V=0.007

M+V=0.005

全長

(cm)

体重

(g)

放流数

(万尾)

金額

(万円)

放流数

(万尾)

金額

(万円)

放流数

(万尾)

金額

(万円)

7

4

14

26.7

374

12.9

181

6.2

87

11

15

31

13.8

428

7.7

239

4.3

133

15

35

46

7.2

331

4.6

212

3.0

138

18

65

85

3.7

315

2.8

238

2.1

179

24

150

240

1.0

240

1.0

240

1.0

240

                                                        M:自然死亡係数   3:流下係数




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