9年目のトラウト・フォーラム

Interview 木住野勇・・・・・・・・・・・・・・事務局長 





釣り人が関わることで、新しい
漁場管理の方法論が現実化してきた。


…トラウト・フォーラムが設立されて今年で九年になります。設立当初から考 えると、トラウト・フォーラムの活動の方向性、対外的な発言力、内部の組織形 態など相当に変化を繰り返して現在に至っています。率直に言って、どのような 点にもっとも変化があったと考えますか。


 活動内容も方向性も当時とは比較にならないほど進歩したと思います。その理 由としてはトラウト・フォーラムという組織自体が変化したことよりも、トラウ ト・フォーラムに参加した多くの釣り人が釣り場の問題点や改善点を提起し続け たことで、釣り人ばかりか行政や漁協などの意識が変化したことが大きいと思い ます。九年前では話さえ聞いてもらえなかった釣り人の提案も、今ならとりあえ ず聞いてくれ、なかには建設的に検討して実行してくれるところさえ現れるよう になりました。ようやく前に進める状況ができつつあるということです。 

トラウト・フォーラムが発足した当初は、すべてが手探り状態でした。 ※1毛鉤釣り 禁止問題※2キャッチ・アンド・リリースの予備調査などをしていくうちに何 となく小さな光が見えるようになって、その小さな光を頼りにより多くの人が前 に進めるようになった。いわば「みんなで考え誰かが行動する組織」から「みん なで考えみんなで行動する組織」に変化できたのだと思います。

 今の日本でごく当たり前に行われている「釣り人が問題提起して釣り場を改善 していこう」という流れを作りだしたのは、トラウト・フォーラムの活動による ところが大きかったのではないでしょうか。

 トラウト・フォーラムは「日本の鱒釣りのありかたを考え、現状を打開する」 という目的のために集まった人々によって、はじめに作られました。決して最初 に組織があって目的を作ったわけじゃない。だから「さあ、何をしようか」では なくて「さあ、どうしようか」という議論のなかで、いろいろなケーススタディ が積み重ねられ、釣り人はいったい何ができるか、また何をすればいいかが少し ずつわかってきた。


 …実際にここ数年になって、トラウト・フォーラムのメンバーが関わってきた 釣り場に関する課題が、※3 各地で目に見えて実現してきています。これはやはりここ数年間積み重ねてきた経験則が、いよいよ実を結んできた結果だと言える のではないでしょうか。


 これまでも各地で局地的には釣り場に関するいろいろな声や、動きは当然あっ たでしょう。そのような動きがトラウト・フォーラムというネットワークに情報 として入ってくることで、より効率的な方策や有効な活動方法を選択できたとい う面はあると思います。お互いの情報をやり取りして、お互いの活動をサポート するという体制が定まってきた。

 トラウト・フォーラムはピラミッドのような組織ではありません。誰が偉いと いうわけではない。全員がひとつの平面に乗っていて、それぞれが役割分担を持 っている。例えば事務局は、ある方向から来た線、情報を、もっとも妥当な他の 方向につなぐという役割です。トラウト・フォーラムというネットワークの中で 線と線、点と点がつながることで、予想もできなかった事態に発展するかもしれ ない。そこがトラウト・フォーラムの本質であり、存在価値だと思います。


 …木住野さんが事務局を引き受けてから今年で四年になるわけですが、四年前 と現在とでトラウト・フォーラムの対外的な受け取られ方に違いはありますか。


 とくにここの二、三年、行政や水産試験場などからの問い合わせが増えまし た。少なくとも四年前には、そういった公的な機関から、トラウト・フォーラム に何かを聞いてくることはありませんでした。今は、こちらからコンタクトをと っていく場合でも「釣り人なんですが」と説明すると、向こうは非常に興味を持 って話を聞いてくれます。つまり向こうの方も積極的に釣り人の意見を情報とし て得ようとしている、という印象を強く感じます。以前はいかにもうさん臭そう に扱われたことが多かったのですが、今はどこへ連絡しても全然対応が違います ね。


 …そのように変化した大きな理由はなぜだと思いますか。

 例えば※4寒河江川 のキャッチ・アンド・リリース区間のように、釣り人が積 極的に関わることによって、新たな漁場管理の方法論が検討され、実際に現実化 したという実績が上がったためでしょう。これまでの内水面の漁場管理は、どち らかというと制度的にも実態的にも行き詰まっていました。

 そこに、例えばキャッチ・アンド・リリースのような発想が、新しいひとつの 道筋というか取っ掛かりをつけた。それは漁場管理の一方法としてその先へいろ いろと幅を広げ、発展していくものです。そのことを行政側が理解してくれたの ではないかと思います。県の内水面の水産担当者の方からも、行政が関わること で現状の内水面をなんとか良い方向に変えようじゃないかという意気込みを強く 感じるようになりました。

 水産試験場の方と話をするとわかるんですが、今までも各県単位では、漁場に ついての様々な試験を実施してデータを保存してきてあるんです。ところが実際 にそれが公表されて釣り場管理に役立ってきたかというと、ほとんどそうではな かった。せっかく取得できた貴重なデータも、個々にあるだけではエネルギーに ならないんです。

 今、ある県の水産試験場では、※5釣獲が魚に与えるダメージについての調査 をしています。そういったデータは、水試と県の行政、漁協、釣り人が連携し て、どのような釣り場をどのようにして作ろうかという話し合いを重ねていく中 で、はじめて有効に機能します。最近になってそこの連携が少しづつ機能するよ うになってきた兆しを感じます。



「キャッチ・アンド・リリース」と
「良い釣り場」は、イコールではない。

…トラウト・フォーラムは以前から活動テーマのひとつに、「キャッチ・アン ド・リリース」の推奨を掲げ、推進してきました。行政、漁協、水試などとの積 極的なリンクを続けてきたことにより、現在は全国各地にキャッチ・アンド・リ リース区間が設定された河川が現実に誕生しています。このあたりでもう一度、 なぜトラウト・フォーラムがキャッチ・アンド・リリースを、活動テーマの一つ に掲げてきたかの理由を確認しておきたいのですが。


 たとえばここに広大な荒れ地があったとします。その荒れ地を一年中花で一杯 にしたいと思ったときに、まずはじめはどんな小さな花でもいいから、とにかく 何かの花を咲かせることが必要でしょう。そこに花が咲いているという事実がな いと、一体自分たちがなにを目標にしているのかが非常に分かりにくい。本当 は、どんな時期にどんな花の種をまいてどういう育て方をするかという全体のプ ランを作って進めていくべきなのは分かっているんですが、荒れ地があまりに広 大すぎる。 

であれば、最初はまず、すべてのことを省略してもいいから、花の 種類も季節も考えずに、とにかく小さな花を咲かせようじゃないか。誰かがひと つの花を咲かせることができれば、それを見た人が花を咲かせる努力を始めるこ とだってある。プランを組立て直すのは花が咲いてからにしよう、と。これまで の日本の内水面の釣り場作りは、そういった時期だったのではないかと思いま す。

 本来は、魚種別の尾数制限、魚種別の全長制限、有効な禁漁区間、禁漁期など の※6トータルな釣り場プランニングが必要なのは当然です。が、釣った魚はす べて持ち帰り自由、河川環境も荒廃しきっている現状では、それらを一からやっ ていたのでは、いつまでたっても何も変わらない。だったらせめて、ひとつの試 みとして釣り人ができることはないか、ということで選択したのが「キャッチ・ アンド・リリース区間設定」です。

 ある意味では、実績作りのために少々無理があるのを承知で、トラウト・フォ ーラムはキャッチ・アンド・リリース区間設定を推奨してきたといえるでしょ う。


 …「キャッチ・アンド・リリース区間設定の推進」を戦略的な意味で、活動の スローガンに掲げてきたとも言えますね。


 より多くの人に賛同を得て、流れを作って行くにはそれなりにインパクトのあ るスローガンが必要でしょう。全長制限を引き上げることや尾数制限を提案する よりキャッチ・アンド・リリースの方がインパクトはあるし、わかりやすい。

 もちろん※7「キャッチ・アンド・リリース」は魚の自然再生産を促すひとつ の有効な方法だと考えられます。けれども、それは「より良い釣り場作り」のひ とつの方法に過ぎず、「キャッチ・アンド・リリース」と「良い釣り場」とは必 ずしもイコールにはならない。言い換えれば「キャッチ・アンド・リリースだか ら良い釣り場」ではないし「良い釣り場を作るにはキャッチ・アンド・リリース にしなければダメ」ということでもないということです。

 「トラウト・フォーラムはキャッチ・アンド・リリース・オンリーなんですよ ね」という問いかけをされることがあります。しかしそれは大きな勘違いです。 トラウト・フォーラムが目指しているのは「キャッチ・アンド・リリースの釣り 場」ではなくて、少なくとも産卵期に魚が残って再生産が期待できる「健全で良 い釣り場」です。そのためのひとつの手段・試みとしてキャッチ・アンド・リリ ースを提唱してきたのです。  



今の「キャッチ・アンド・リリース」には、釣り場管理の
トータルなプランニングが抜けている。

 …トラウト・フォーラムは釣り人の集まりです。釣り人としてのスタンスを常 に意識していないと、いつのまにか活動の手段が目的になってしまう恐れがあり ます。


 「キャッチ・アンド・リリース」というシステムは本来、釣り場を良好な状態 に維持するために、釣り場の管理者が、トータルに釣り場を管理するプランニン グの中の一環です。魚種別の尾数制限や禁漁区間、全長制限などと組み合わせた 中で「このような理由(産卵期まで魚を残したいとか)があるのでここの区間や この魚種に関しては魚を持ち帰らないでください」と管理者が釣り人に依頼する (規制する)釣り場管理の一手段だと思います。

 しかし残念ながら日本ではまだそこまで状況が成熟していない。釣り場の荒廃 を何とかしたいと考えた一部の釣り人が「じゃあ自分たち釣り人だけでも魚を持 ち帰らないようにしよう」という自主的な規制として「キャッチ・アンド・リリ ース」を提案した。今日各地で生まれているキャッチ・アンド・リリース区間も まだこの延長線上にある、と言っても過言ではありません。

 日本の釣り場の多くには一番肝心な「トータルな釣り場管理プランニング」が 抜けています。というよりも日本の内水面漁業行政には、釣り場を管理するとい う発想で責任を持ってプランをつくる部署がありません。釣り場の管理者に一番 近いと思われる漁協は※8漁業権の中での漁場管理という立場で(一部の先進的 な漁協を除いて)釣り人のために釣り場を管理するという認識を持っていない。 都道府県の担当課は漁協を管理する立場になるので、こちらもやはり、釣り場を 管理するという認識を持っているところは少ない。仕方ないから※9釣り人がプ ランを考えて提案し、漁協や行政を説得する、というおかしな事態になるわけで すが、一番肝心なベースになるトータルなプランがないから、キャッチ・アン ド・リリースが何故必要なのか、釣り人も漁協も行政もよくわからないうちにキ ャッチ・アンド・リリース区間を設定することが目的のように勘違いされてしま う傾向があります。

 トラウト・フォーラムが※101997年に実施したアンケートによると、釣り人 がキャッチ・アンド・リリースを行う理由として「魚を残したい」という以外に 「魚がかわいそう」「殺したくない」「必要ない」などの意見も多数ありまし た。これに加えて「自然保護」みたいな考えも混ざり合うと何のためのキャッ チ・アンド・リリースだか訳が分からなくなる。事実、釣り人から「キャッチ・ アンド・リリースしない釣り人はけしからん!」というような発言まで飛び出し て、これはもう一歩間違うと「釣りをしない方がいいんじゃないか」という釣り 人として本末転倒の事態になりかねないわけです。

 これからは釣り人の立場からキャッチ・アンド・リリースをどうとらえるかと いうことを常に意識して考えていかなくてはならないんだと思います。  例えば、キャッチ・アンド・リリース区間が設定され※11地元に大きな経済効 果がもたらされた、という事実があったとします。これを釣り人としてどうとら えるかというと、やっぱり釣り人としてはキャッチ・アンド・リリース区間の設 定によって「良い釣り場」が生まれたどうかという事実を追求するべきでしょ う。

 釣り人が漁協や地元に働きかけてキャッチ・アンド・リリース区間を設定する 場合、地元の理解を得るために「キャッチ・アンド・リリース区間の集客力をど うぞ経済活動に利用してください」と提案する場合があります。またこれとは逆 に地元住民が流域に釣り人を誘致しようという発想のもとで、キャッチ・アン ド・リリース区間の設定を漁協に働きかける場合があります。

 いずれの場合でも、釣り人は「良い釣り場」ができることを求め、地元住民は 「経済効果」なり「地域の活性化」なりを求め、漁協では(多くの釣り人が訪れ ることで)遊漁料収入が上がり、その割に放流の手間が少なくて済む、といった ように、キャッチ・アンド・リリースに望んでいる目的とメリットはそれぞれで 異なります(メリットが共通する場合もあります)。釣り人が地元や漁協サイド のメリットをアピールするのは、あくまで「良い釣り場」をつくるという目的を 達成するための、ひとつの手段であると考えるべきでしょう。

日本中の釣り人が「良い釣り場」を作ることを目標に、
得意分野を発揮して集結すれば、釣り場の未来は明るい。
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 何度も言いますが、トラウト・フォーラムは「魚の再生産ができる健全な釣り 場」をつくるために魚の再生産を促すひとつの方法として「キャッチ・アンド・ リリース」を提唱してきました。言い換えれば私たち釣り人はキャッチ・アン ド・リリースによって「いつも川に魚がいて、できれば再生産したきれいな魚が いて、気持ちよく釣りができる釣り場」を求めているということです。こう言う と反論が来るかも知れませんが、うんと分かりやすくぶっちゃけた話をしてしま うと、トラウト・フォーラムが提唱したキャッチ・アンド・リリースの目的は 「自然保護」でも「魚に優しい」でもありません。「次に釣るためにリリースす る」、「将来も釣りたいからリリースする」、「再生産したきれいな魚を釣りた いからリリースする」ということです。


 ※12トラウト・フォーラム憲章には、釣り人として「気持ちの良い釣りをす るためにどうしようか」という思いが根底にあります。釣り人にとって最終的に どのような釣り場が「気持ちの良い釣り場」なのかをしっかりとイメージする作 業は、理想の釣り場作りのためには欠かせないものです。


 これまでトラウト・フォーラムは、とにかく小さな花でも咲かせればいいじゃ ないかということで、キャッチ・アンド・リリース区間の設定を推奨してきまし た。しかしそろそろその状況から一歩前に出なければいけない時期にさしかかっ ています。いわば、キャッチ・アンド・リリースを錦の御旗にするレベルから脱 却していかなければならないんです。いつまでたってもみんなで「キャッチ・ア ンド・リリース万歳!」ではこの先さらに前進はできません。
 釣り人はもっと「良い釣り場」の理想像について話し合い、漁協や行政と連携 しながら「釣り場管理のトータルなプランニング」を求めて活動を進めていくべ きだと思います。


   …幸いにしてトラウト・フォーラムの理念に賛同してくださる外部のブレーン が、続々と増えていっています。水産試験場、理解ある行政担当、一部の漁協な どと、緊密な連絡を取り合って次の策を模索することができる状況になりつつあ ります。


 荒れ地にも<キャッチ・アンド・リリース>という小さな花が咲いた。次は別 の花を違う季節に咲かせてみようじゃないか、という発想を「荒れ地を一年中花 で一杯にする」ための大きなプランニングの下でトータルに進めていけば、釣り 場の未来は広がると思います。トラウト・フォーラムは釣り人の立場からそのプ ランニングに関わることができるはずです。キャッチ・アンド・リリース区間設 定は、荒れ地に咲いたたった一本の花ですが、その花が咲くことによって、将来 にもっともっと大きな可能性が開く、それはどのようなことなのかを検証したい と考えています。トラウト・フォーラムでは今年、※13川の未来にどのような可 能性が考えられるかを検証するビデオを制作する予定です。


 …トラウト・フォーラムの次なる具体的な目標は何でしょうか。


 トラウト・フォーラムには様々な職業の人達が「釣り人」あるいは「水産研究 者」といった接点で参加しています。そして参加した会員は、金銭や名誉といっ た利益ではなく、釣り人として「より良い釣り場」、「気持ちよく釣りができる 釣り場」、「再生産が期待できる健全な釣り場」を手にできる喜び、次代に残せ る喜びを求めています。そのためにはキャッチ・アンド・リリースを含めた新た な釣り場管理を提案するだけでなく、現状の制度の矛盾点を改善していく提案も していかなくてはなりません。

 キャッチ・アンド・リリース区間は今後各地でどんどん誕生していくと思いま す。しかしそれを「より良い釣り場作り」という大きなプランニングの下で受け 入れる制度も環境も整っていません。その点を整備することがトラウト・フォー ラムが次に掲げる大きな活動テーマです。

 今年トラウト・フォーラムが発行した※14「マス類を漁業権魚種にする漁協リ スト」は今後のトラウト・フォーラムの方向性を示す一例と考えていただければ 良いと思います。このリストをデータベースとして様々なデータを加えてけば日 本中どこにも存在しない貴重な資料になります。多くの釣り人が漁協や行政に情 報を提供する足がかりにもなります。そしてそれらの意見が釣り場を変えるきっ かけになることは間違いありません。

 日本中の釣り人が「良い釣り場」を作ることを目的に得意分野を発揮して連携 していけば、釣り場の未来は明るいものとなるはずです。トラウト・フォーラム もその一端を担うべく地道な活動を続けていきます。


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