主 張 す る 釣 り 人 養 成 講 座 -5-



本文まとめ/TF事務局:木住野勇

キャッチ&リリースの実例と
キャッチ&リリース以外で釣り場を
維持する方法の可能性を探る


“気持ちよく釣りたい”ことを主張するためには、まず、私たち釣り人自身を
取り巻く社会的な状況を知ることから始めなければなりません。
この講座では、釣り人に関係する法律や規則などを、できる限りわかりやすく説明していきます。
第5回は、キャッチ&リリースの設定実例と、釣り場を維持するために
キャッチ&リリース以外にどのような方法があるのかを考えます。

 前回でキャッチ&リリース(C&R)と尾数制限が法(漁業法)や規則(都道府県内水面漁業調整規則・遊漁規則)ではどのような扱いになっているかを調べました。
 
しかし、現状の法や規則で規制しにくいキャッチ&リリース区間を、すでに実現している釣り場が国内にあります。今回はその実例の紹介、つまり“どのような約束事で、キャッチ&リリース区間を運営しているのか”と、魚を残しながら釣り場を維持していくために、C&R以外で、現在考えられる方法を考察してみます。
 

第5種共同漁業権が設定されて
いる釣り場でのC&R区間


 国内の河川・湖沼は北海道の一部を除き、ほとんど第5種共同漁業権が設定されています。簡単にいうと漁業協同組合(以下漁協)が管理している河川・湖沼(正しくは漁業協同組合が漁業権という権利を所有している河川・湖沼)ということですが、ここでキャッチ&リリース区間(以下C&R区間)を設定する場合、釣り人や地元自治体が勝手に区間を設定できるわけではありません。漁業権のある一般的な釣り場において、組員が行う漁業は漁業権の範疇に含まれています(組合員の釣りも漁業だ、ということになっている)が、一方、釣り人(遊漁者)の行う釣り(遊漁)は遊漁料を支払って、漁業権者(漁協)から釣りを認めてもらっているという立場になります。したがってC&R区間の設定はその区間の漁業権者である漁協が行うことになります。
 
しかし、漁協が告知をし、区間の設定が実施されたとしても、法的根拠に基づいているわけではありません。なぜ遊漁規則で規制できないのかの理由は、前回で説明しました。つまり、第5種共同漁業権がある釣り場におけるC&Rとは、正しくは「このC&R区間は、漁協が釣り人の皆様に釣った魚の再放流をお願いしている区間です」ということになります。逆に言うと、第5種共同漁業権のある釣り場においては、現状の法規制の中では「漁協からのお願い」でしか、C&Rを設定できない、ということです。  
現在国内でC&R区間が実施されている山形県の寒河江川と月光川は、この方法によるC&R区間の設定を行っています。また新たに区間設定の決定している最上白川についてもこの形態で設定される模様です。
 

第5種共同漁業権も区画漁業権
も設定されていない河川・湖沼

 
 第5種共同漁業権も区画漁業権も設定されていない河川・湖沼では、漁協がありませんので、自治体や流域住民が中心になってC&R区間を設定し釣り人に協力をお願いする形態になります。
 
代表的なものが北海道滝上町を流れる渚滑川です。渚滑川では、地元の滝上町が観光事業として魚を放流し、訪れた釣り人に「再放流」をお願いしています。渚滑川には現時点で漁業権がないため遊漁規則に準ずるものは存在しませんが、公共水面のため「北海道内水面漁業調整規則」が適用されます。
 

区画漁業権のある河川・湖沼で
のキャッチ&リリース区間


 区画漁業権内でのC&R区間という実例は国内にまだ無いと思われます。区画漁業権のある河川・湖沼で漁業権者(区画漁業権の場合、漁協だけではなく、個人・法人・自治体などが持つことができます)が釣りを認めている場合は、釣り人は、一般的に受認料(遊漁料と同じようなもの)を支払い釣りをすることができます。この場合、区画漁業権は養殖のための漁業権であり、魚を養殖して出荷するのが主たる目的ですから、一部で釣りを認める、という形になります。
 
ここでの釣りは漁業権者の指示に従うことになっており、もし漁業権者が「釣った魚を持ち帰ってはいけません。すべて再放流してください。」というルール作りをすれば、完全なC&R区間が誕生する、ということになります。区画漁業権は一般的ではありませんが、北海道にいくつか見られ、本州でも案外知られていないところに存在しています。

 内水面でマス類を対象にしたキャッチ&リリース区間の実例を挙げてみました。そもそも、なぜ国内でC&Rの釣り場が求められ、登場したのかというと、釣り人が増え、釣り具・釣法の進化に、従来の方法では釣り場がついていかないという実態があったからです。ではここで、C&R以外に、釣り場を維持するために効果的な方法があるのかについて探ってみます。

キャッチ&リリース区間と遊漁規
則で定めた尾数制限を併用する。


   C&R区間は現在では遊漁規則による規制ができず、釣り人に協力を依頼する形態である、ということを先ほど述べました。それでは、釣り人への拘束力がある「規制」を作ることを念頭においた場合、遊漁規則の中に「尾数制限」を設定することが考えられます。
 
前号でも述べましたが「尾数制限」は遊漁規則に盛り込むことが可能です(河口湖漁協などが実施しています)。遊漁規則は、すべての釣り人に拘束力を発揮します。仮にどうしてもC&Rに協力できない釣り人も、規則で定めた「尾数制限」は守らなくてはなりません。  
尾数制限を設定する場合、組合員の「行使規則」でも同じ制限をしますので、その河川(湖沼)にいる釣り人すべてが同じ規則のもと釣りをすることになります。

C&R区間よりも「尾数制限」を
設定して、徹底する。

 
 欧米などでは完全C&Rの釣り場もありますが、C&Rでなくてもキープ(持ち帰り)できる魚の制限(何センチ以上の魚を一日何匹とか)があるのが一般的です。国内ではこのような制限のある場所はほんの一部ですが、冷静に考えると限られた資源を「無制限」に釣って良い、という方がおかしいような気がします。例えばの話ですが、一日千円の遊漁料を払って百円の魚を十五匹釣ってしまったら、放流している側では赤字になってしまいます。一時的にはこのような状況が許されたとしても、とても永続的に続くとは思えません。
 
なぜ国内の内水面において、これまで「尾数制限」がなかったのかというと、河川や湖沼のほとんどに漁業権があり漁業を営む上で「尾数制限」は障害になると考えられたからではないでしょうか(定かではありませんが)。今日では、内水面の河川・湖沼での「漁業」は、ほとんどの場合、遊漁中心になっています。漁業により生計を立てている漁業者がいない漁協などでは積極的に「尾数制限」を導入する必要があると考えます。

※「漁業」という定義がなされている「漁協組合員の釣り」なども、一般的な遊漁とあまり変わらないように思いますが、このような場合の漁業と遊漁の区別については話が長くなるので別の機会にします。

規制や制限でなく漁協としての
考えを示す。


 漁協や地元に「釣り場にできる限り魚を残したい」「いつでも魚のいる川にしたい」という考えがあった場合、一番最初にできることとして以下のような立て札を建てることにより、多少の効果が期待できます。立て札には、「魚の必要無い方は後からくる釣り人のために極力魚を流れに戻して下さい」とか「ここより上流は在来種が棲息しておりその数が激減しています。在来種はできるだけ釣らないようにお願いします。」といった内容を記しておきます。
 
釣り人の中にも近年は「魚を持ち帰ることより釣り自体を楽しみたい」という流れが大きくなっていますから、そういう釣り人の多く訪れる釣り場では意外と効果のある方法だと思います。内水面漁業は遊漁が中心になりつつありますので「釣り場をどうしたいのか」ということを、漁業権者としても、釣り人へメッセージとして伝える必要があるのではないでしょうか。  <この項了>


※先日、首都圏にある、とある漁協の組合長から、ちょっと笑える話を聞きました。その釣り場にしばしば釣りに訪れる地元の釣り人、Aさんの、近所に住んでいる人がこのように言っていたというのです。「Aさんは釣り好きなのはいいけれど、釣った魚を近所に自慢気に配り歩いているから迷惑している」。「最初貰ったときはありがたかったけど、こうしょっちゅうじゃ嫌になる。貰いっぱなしって訳にもいかないしねー」。思わず吹き出してしまいましたが、ありそうな話です。
 
以前、魚を貰った経験や魚を貰った後どうするかなどを、家内に知り合いの主婦数名から聞き取ってもらったことがあります。その結果としては、全般的に川魚はあまりイメージが良くないが、その中ではアユが比較的評判が良い。理由は、生臭さが少ない、料理し易い、貴重な魚であるから、というものでした。一方、残念なことに、私たちが釣りの中心にしているマス類はあまり評判が良いものではありませんでした。その理由として、生臭い(生ゴミとなる内臓も生臭い)、まな板や包丁が臭くなる、調理が面倒、あまり好きではない、などがあげられました。中には「ちょくちょく貰うけど迷惑」とか「貰ってもそのまま捨てている」という答えも多く、驚かされました。
 
釣り人の中には自分の釣りの「腕」のアピールのために、近所に釣った魚を
“おすそわけ”する人もいると聞いたことがあります。ところが、本人の思惑とは別に、案外迷惑がられていることもあるようです。         (木住野)
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