第3回トラウト・セミナー
『日本のフィールドでの
キャッチ&リリースの有効性を探る』
パネルディスカッション参加者:左奥から:
●西山 徹
(司会・TF代表)
●橋本 収
(北海道紋別郡滝上町町役場勤務)
●藤本 靖
(北海道内水面漁場管理委員)
●鈴木 裕之
(山形県農林水産部水産課内水面増殖主査)
●加藤憲司
(東京都水産試験場資源管理部主任研究員)
●佐藤成史
(群馬県内水面漁場管理委員会委員)
●島崎憲司郎
(群馬県両毛漁業協同組合理事)
●このところ、各地で、より質の高い釣り場を作るためのアプローチが、様々な 角度からなされている。その内の一つ、「キャッチ&リリース」は釣り人なら誰 でもすぐに実践することが可能な、もっとも身近な行動だ。
●トラウト・フォーラムの設立当初(1993年)、まだ全国のどこにもキャッチ& リリースを掲げた釣り場はなかった。それが今は、進行途中ではあるものの、全 国の幾つかの河川で、実際にキャッチ&リリースの理念に基づいた釣り場の運営 がなされている。また、これから新たにキャッチ&リリースの釣り場を作り出し ていこうという活動も、さらに幾つかの釣り場で試みられている。トラウト・フ ォーラムはこれら各地の試みについて積極的にバックアップ活動を行ってきてい る。
●去る2月22日(日)、埼玉県伊奈町県民総合活動センターにおいて、トラウ ト・フォーラム主催による第3回トラウト・セミナー『日本のフィールドでのキ ャッチ&リリースの有効性を探る』が開催された。このセミナーでは釣り場作り の実績を重ねてきた各地のキーマンによる報告と、パネルディスカッションが行 われた。セミナーの全般を通じ、キャッチ&リリースに関する各人の経験や実例 をおり混ぜた、活発な意見の交換が行われ、規定の時間ではおさまらないほどの 盛り上がりを見せた。参加人数は約100名。会場には水産行政の現場に携わる方 や漁協関係者の方にも多く参加していただいた。
●当日、セミナーに先立ってTF会員のための勉強会が開催された。セミナーへパ ネラーとしても参加していただいている3人の方に、主に「釣り人と漁協」にテ ーマを絞ってレクチャーをいただいた。以下に、その内容を再録する。
TFJ編集局まとめ(文責・堀内)
(第3回トラウト・セミナーの基本報告とパネルディスカッションの全文は、 『フライの雑誌』第41号に掲載されています。希望者はTF事務局へご連絡いただ ければ、複写をお送りします。)
全国から集まった釣り人、水産関係者、漁協関係者により、熱のこもった討論が繰り広げられた
『釣り人は釣り場のために 何が出来るのか』
鈴木裕之
<山形県農林水産部水産課内水面増殖主査>
<司会(事務局/木住野): 山形県の寒河江川では昨年からキャッチ&リリー ス区間が設定され、今年2年目に入っています(注:寒河江川のキャッチ&リリー スについてはTFJ14号参照)。寒河江川でのキャッチ&リリース区間設定について は、どちらかというと県のほうが主導したという印象があります。実際にキャッ チ&リリースを進めていくにあたり、現場の漁協さんとの間でどのような話し合 いがあったか、遊漁者と漁協との接点をどのようにとりもったかなどをお聞きし たいのですが。>
鈴木
制度上漁場を守っていくのは、あくまで漁協です。ただ、外からだけでは その内部は分かりきれない。漁協の中に入らないとわからない部分が相当有りま す。ですから、これからはなるべく情報を公開していこう。その中で漁協の中の 情報も出していこうと。じゃあ一方、釣り人はその恩恵を受けるだけでいいのか 、遊漁料を払って釣るだけでいいのか。先日、山形県で行った渓流釣りフォーラ ムの中で、山形県の水産課長がそんなことを言っておりました。
では釣り人が釣り場のために出来ることには、どういうことがあるのでしょう か。
釣り人や漁協の人たちもそうですが、漁場の荒廃が魚をいなくしたと、そう いう言い方をされる方が結構います。もちろん漁場の環境保全は前提です。それ が守られなければだめです。しかし、例えば、山形県にある八久和川。この八久 和ダムの上というのは完全な自然の渓流です。上の方は原生林で堰堤もひとつも ありません。この上流部の真ん中あたりのプールは、昭和五十年代の後半まで尺 のイワナが養殖場のように泳いでいた所でした。それが源流の釣りが流行ること によってちらほらしか見えなくなってしまった。これはいわゆる漁場環境の荒廃 でいなくなった例ではありません。純粋に釣り人の漁獲圧力が強かった、それが 魚影を減らした原因でしょう。
それだけ人の力、漁獲の力というのは強いものです。そんな釣り人自身が釣りを しながら出来ることと言うのは、探せば実はかなりあるのではないかと考えま す。
一つは、漁協の組合員になること。実践されている方もいると思うんですが、 自分の住んでいる地域の漁協に入るのは、今は難しくありません。一定の規定が あるんですが、それも大した規定ではありません。付加金と行使料を払えば組合 員になれます。今高齢化が進んでまして、漁協サイドはなり手が居なくて困って います。ですから若い力は喜んで受けいれてくれると思います。
例えば山形には十六の内水面の漁協があり、その上には上部組織として連合会 があります。十六の漁協の中には百人ちょっとの組合員しかいない漁協から、大 きいところでは三千人以上抱えている漁協もあります。人数だけではなくて意識 的なもの、体制的なものについてもかなりの落差があります。例えば今回キャッ チ&リリース区間を設定した最上川第二漁業協同組合は、三千人ほど組合員がお りまして、非常に先進的な考え方を取り込みやすい漁協でした。ですから今回の ような話もうまく進んだんですが、一方、何であんな事をしているんだと言う漁 協もあって、様々です。
漁協の内部では、遊漁者を受け入れようという漁協がある反面、今でも"おら ほの川だ、自分たちの川だ"、という意識が非常に強い漁協もあります。ただ、 今は遊漁者が非常に増えていることもあり、遊漁者を排除する事というのは、制 度上出来ないことです。その中で遊漁者と漁協の接点が必要なんじゃないかなと いう風なことを考えつつ、私は今仕事をしています。歩み寄りの中で釣り人が漁 協の中に入っていくというのは、一つの大きな手じゃないだろうかと思います。
もう一つ、漁協の中に入らなくても、釣り人が釣りをする上で、釣り場のため に出来ると思うことがあります。釣り人には、ルールやマナーを知らないで入っ てくる人もいますし、規則を無視する人もいますし、色々な人たちがいます。そ ういう人たちに対して模範的な釣りをすること、もしくは、マナーを守ることに よって、釣り人としての模範を示していけるのではないか、ということです。時 と場合によっては、ある程度相手を注意するぐらいの仕組みができればいいなと 考えています。実は先日、TF代表の西山さんから、大変いい表現をいただきまし た。「釣り人同士の相互監視システム」とおっしゃられましたが、これは非常 に、釣り場を守るために有効な手だてではないかと、私は思っています。
『漁協の活性化が 川の将来を決める』
加藤憲司
<東京都水産試験場資源管理部主任研究員>
今の漁業法は昭和二十四年に改正されたものに基づいています。昭和二十年に 日本が戦争に負けて米軍が占領し、色々な法整備を再編する中で、漁業法も改正 しようということになったわけです。
その中の一つに、内水面つまり川とか湖の漁業法を、大きく変えようという動 きがありました。それはアメリカみたいなライセンス制度にしてしまえという動 きで、これは国会に上程される所まで行っています。ところが、残念ながらとい うかなんというか、結果的には、今現在の漁業法で決まってしまっています。
その時の理由が何故かといいますと、一つには、新しいライセンス制度を、役 所の人間が管理していくのには、人数的にも組織的にも無理だというのが一つ、 もう一つは先ほど、山形の方の"おらが方の川"というのがありましたが、正に そういう事です。
要するにもともと川は漁師さんが使っていたし川の魚もおらほのもんだという 意識があるわけです。ですから地元地元で管理させるのが日本の実情には一番適 しているだろうということになった。で、現在の体制になっています。
そういう事で、漁場の管理の主体はやはり漁業組合がやるんだということにな りました。ただしその時にもう、漁業というのは戦後、特に都会の川というのは 戦前からそうですけれども、河川の漁業で暮らしをたてるというのは、ほとんど なくなっていました。まして昭和二十四年というと、日本は戦後の復興期です。 それから三十年三十五年にかけて高度成長の時期です。そんな状況における漁業 法の意味は、漁協には漁業権を免許するけれども、漁業っていうのはあんまりな いんだから、これは漁場を管理をすることの対価なんだと。要するに漁業組合は 漁場を管理し、その代わりに入漁料を取っていいと。こういう趣旨なんです。
要するに戦前の漁業法と現在の漁業法が、趣旨として一番違うところは、戦前 はあくまでもそこで漁業をするから権利を認めてあげる、ということだったけれ ども、戦後は、釣り人が沢山入って来るんだから、漁場は漁業組合のみなさんが 管理しなさいよと、その代わりに入漁料を取っていいですよ。こういう趣旨に変 わったと思っていいわけです。釣り人と漁業組合の関係を今から考え直すとき に、基本はそこにあるということを、まず一つお伝えしておきたいと思います。
それから東京の漁業組合なんですけれども、東京でマスのいる川の漁業組合っ ていうのは今六つあるんですが、多摩川の最下流を受け持っている多摩川漁業組 合の経営が一番大変です。最下流ですから区間的には一番長いのですが、多摩川 の下流というのは水が汚れてしまっていて、鮎の友釣りが出来ない。それといわ ゆるマス釣り場、常設のマス釣り場を多摩川漁業組合だけ持っていない。ですか ら大変なんです。
ところが下流の組合というのは、ものすごく大事なんですね。今はまだ奥多摩 までのぼりませんけれども、多摩川もサクラマスが回帰する川です。天然遡上ア ユも戦前は奥多摩まで上っていた。ところが下流の組合が大変だから、そういう 事に対してフォローアップしていくにしても何にしても、色んな問題でむずかし い。これは東京都として非常に大きな問題だと思っています。
やはり組合の経営がよくなくては魚が増えていかない。それが東京の場合だと 一番下流の水質が悪く、上流の組合に対してもいい影響が出てこない、という風 なことになる。その辺はきちんとやっていかなければならないことだと思いま す。もちろん行政もバックアップするんですけれども、これは行政の力だけでは どうにもならないですね。
それからもう一つは、どこの組合でもそうですが、六十、七十の人が組合員の ほとんどを占めています。個々の組合の方は熱心に川と魚の問題に取り組まれて いますが、経営を改善していこうとか、どういう風に組合を立て直していこうと か、そこら辺の討論に若い人がなかなか入っていけない状態です。どういう人が 組合をやっているかというと、その川の地区地区のお年寄りの名誉職みたいにな っている部分もある。これではなかなかいい方向に動いていきません。ですから これからは若い人がどんどん漁協に入って、組合経営も向上させ、なおかつ釣り 場なり漁場の保全、川の環境を守っていくためにどんどん発言していかなければ いけない、そういうことだと思います。
漁業組合の歴史と、漁協が今こういう現状にあるということを、アウトライン だけお話ししました。
『漁協理事は はたで見るより しんどい仕事です。』
島崎憲司郎
<群馬県両毛漁業協同組合理事>
<司会(事務局/木住野):島崎さんは群馬県の両毛漁業協同組合の理事を務め られていますが、漁協の活動へ日常的に関わってきた中で、苦労した点や新しく 発見した点、お気づきになった点などを教えていただけますでしょうか。>
島崎
…実際に漁協に入ってみますと、これはだいたいそんなことだと思ってはいた んですが、一番大変なのは価値観の異なる方との、人間関係のストレスですね。 人間が大勢集まっていますから、その中には釣りの方法も、釣りに関する考え方 も、まるで違う人が大勢います。理事として様々な会合に出ていくと、色々な人 が、それぞれの立場から様々なことを言ってきます。それらに対して、理事はあ くまでご意見を拝聴するという姿勢です。そういったストレスに比べれば、例え ば放流作業などは体を使えばいいだけなので、実はずっと楽な仕事だといえま す。
漁協の理事にはどれくらいの仕事量があるかをご説明します。解禁が三月なん ですが、三・四・五月と、釣りに一番いいシーズンはまず釣りは出来ません。こ こに去年の六月の記録がありますが、六月になっても、月に十八回出ています。 六月六日が県産の鮎放流、八日は稚魚ヤマメの放流、九日にまた別の作業があっ て、十五日がイワナの放流、それに試し釣りやテントの設営や・・・・こんな感 じで十八回です。去年一年間の仕事量を計算したら、全部で二百六十日ありまし た。作業時間は一日に八時間づつはあります。それが1期3年間続くわけですからね。
作業の集合時間は、だいたい朝の五時です。五時ということは四時頃には起き ていなければ間に合いません。また、五時集合だからといって、五時に行ったの ではまずい。三十分でも早く行ってお茶でも入れておけば、おお、なかなかじゃ ないかという事になります。
僕は理事になって、はじめの一年間は何にも言いませんでした。一切発言な し。で、人の嫌がることは率先してやりました。それをずっとやっていけば、ど んな相手でも話ぐらいは聞いてくれるようになります。そこではじめて、例えば キャッチ&リリースなどといった自分の意見について、説明をしていける状況が できたわけです。
外から見ていると簡単そうですが、作業には危険が伴うことも多くあります。 例えばガレているダム湖でロープを張ったり、ボートを引いていって、そこにワ カサギの発眼卵を縛り付けたり。雪が降った日にもやる場合があります。一昨年 の、まだ雪が降っていた四月の二十九日、僕は作業中の船から湖に落っこちたこ とがありました。その時はウェーダーのまま桟橋まで泳いで帰りました。
もし今日のこのセミナーに参加されている方で、漁協の理事をやろうかと考え ている方がいたら、ぜひやられてみるといいと思います。いやあ島崎さんが言っ たよりも、もっと大変だったということになるかもしれません。
そのかわり面白いこと、勉強になることもあります。たとえば先ほど、四月二 十九日に水温の冷たいダム湖へ落ちて泳いできたといいましたが、その時の水面 に、でっかいユスリカがいっぱい浮いていたんですよ。#12から#10のオオユスリ カです。それがプーンとハッチしている。泳ぎながらそれを見つけて、手元にフ ィルムのケースが有ったんで、五、六匹入れて持ち帰って来ちゃいました。転ん でもただでは起きないと言うか。あのハッチも岸にいたんでは気づかないです よ。自分が水に落ちたから分かった。なんだこれを食ってライズしてたのかと、 ひとつ利口になりました。
ホントに漁協の理事というのは大変だし、仕組み自体が新しいことをやりづら い部分があります。でも、フライフィッシングをやる釣り人が、一人でも二人で も理事に入ってくると、組合は全く変わってきます。だから大変だろうけれど も、ぜひ皆さんにもそれぞれの地元の漁協の組合員になっていただき、理事の一 員に加わっていただきたいと思います。
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