釣り場づくりのための
シミュレーション入門


第6回/キャッチ&リリ−スの課題 

米沢純爾(東京都)



 前回述べたように、釣り場に魚を増やす手段としてキャチ&リリ−スは有力な 方法と考えられる。今回はそれに関連し、どのような条件の河川でキャッチ&リ リ−スがより効果を上げ得るかについてシミュレ−ションを行ってみたい。ま た、キャッチ&リリ−スの実施に伴って派生的に生じる生息魚の反復採捕の問題 についてもふれてみよう。使用するモデルは前回と同じ「渓流資源モデルVER2.0 」で、とくに断らない場合、パラメ−タは前回と同様に設定されている。なお、 今回は数式が一切登場しないのでご安心いただきたい。

 はじめに自然死亡がキャッチ&リリ−スに及ぼす影響について検討しよう。自 然死亡については前にも述べたが、簡単にいえば漁獲以外の要因による魚の減少 のことである。具体的には寿命や共食いによる死亡、野鳥や川ネズミ等の外敵に よる捕食、更に大水による魚の釣り場外への流下などがあげられる。
 
水産資源学では、この度合を自然死亡係数Mで表す。ちなみにMはMortality の頭文字である。図1にMが0.004〜0.007の場合における資源尾数の変化を示し た。この図は入漁者全員がキャッチ&リリ−スを行った場合、当初5千尾生息し ていた2年魚の数が、どのように変化するかを示したものである。自然死亡係数 は直感的には理解しにくい値なので、これを死亡率に変換すると、Mの0.004〜 0.007は釣り場に棲む魚の約0.4〜0.7%が漁獲以外の要因で毎日減少することを 意味する。釣り人が全く入らないとしてもそれだけの割合で魚が減ってしまうの である。

   ここで勘違いしないでいただきたいのは、前にも述べたように1日に 0.5%減 少するなら 200日で100%減少して生息数が皆無になるという計算にはならない ことである。今、仮に 1,000尾の魚がいて、死亡率が5%であるとすれば、初日 は50尾が減少し残り 950尾になる。2日目は 950尾の5%で約48尾が減少し、残 り 902尾になる。このように、1日当たりの減少尾数はだんだん少なくなるので 簡単には生息数が0尾にならない。正確にはその計算をいくら繰り返しても生息 数はいつまでも0にはならない。それはさておき、図1に示されるようにMが 0.006、死亡率にして1日当たり約 0.6%の場合にはキャッチ&リリ−スを完璧 に行った場合でも、魚の数は当初の5千尾を維持できず徐々に減少する。Mが 0.007 では更に魚の減少傾向が顕著で、10年後には 350尾程度になると予想され る。

 一方、Mが 0.005では10年後の資源尾数は当初の4倍の約2万尾まで、Mが 0.004では当初の8倍の約4万尾まで増加する。このように自然死亡の度合はキ ャッチ&リリ−スの効果に大きな違いをもたらし、Mが小さい河川では効果が鮮 明であるのに対し、Mが大きい場合には効果は期待薄である。河川改修による流 路の直線化や堰堤の建設などは人為的なM値の増加につながっていると考えられ る。

 次に再生産の問題について検討しよう。前にふれたように再生産は親の数と子 供の数の関係として捉えられる。魚の場合は年齢によって産卵数が大きく異なる ことが多いため、産卵数と子供数の関係として捉える方が分かり易い。

 図2にリッカ−型再生産式におけるβ値を0.0001〜0.0008にした場合の産卵数 と加入尾数の関係を示した。β値は親魚または産出卵の密度が、卵稚仔の生残率 に及ぼす影響に関する係数である。渓流河川の場合であれば、このβ値には好適 な産卵場の広さや、ふ化稚魚の隠れ場の多さ、ユスリカ幼虫等の初期餌料の豊富 さ、稚仔魚を食害する可能性のある1、2年魚の量など、様々な要因が複合的に 関係していると考えられる。

 図2から分かるように、同一の産卵数でもβ値が小さいほど加入尾数が多くな る。なお、産卵数が一定値を越えると加入尾数が逆に減少するということに納得 がいかない方もおられるかもしれない。狭い場所に稚魚が過密に生息すると、餌 不足で共倒れになるような事例を想定されるとよい。

 もっとも、日本の渓流河川においては、鱒類の再生産に関する研究事例は極め て少なく、実際にどのような状態になっているか不明な点が多い。再生産関係を 把握するには釣り場管理者、釣り人、研究機関の三者が一体になって、長期にわ たる計画的調査を行う必要がある。わがトラウトフォ−ラムもいずれはそのよう な本格的調査に参画していきたいものである。

 さて、β値を0.0001〜0.0008にした場合の2年魚の資源尾数の推移を図3に示 した。β値が0.0008の場合にはキャッチ&リリ−スを完全に行っても、10年後の 資源尾数は当初と同じ約5千尾のままである。一方、β値が0.0001の場合には、 10年後に約4万尾まで資源を増やすことが可能である。

 このように再生産における密度効果を示すβ値が、キャッチ&リリ−スの効果 に大きな影響を及ぼすことが予測される。β値が小さければキャッチ&リリ−ス が資源の増殖に大きな効果を発揮するのに対し、β値が大きな河川では効果はあ まり期待できない。

 以上からお分かりのように、どのような河川でもキャッチ&リリ−スが大きな 効果をもたらすというわけにはいかない。トラウトフォ−ラムの目標の1つとし て、キャッチ&リリ−ス釣り場の実現がかかげられている。私たちの直接、間接 の支援によって日本にも、そうした釣り場が実現しはじめているのは喜ばしいこ とである。この運動が更に成果を上げるには、釣り場の選定に当り、上記したよ うに自然死亡が少なく、再生産が効率的に行われる河川を選定することが望まれ る。

 最後にキャッチ&リリ−スに伴う反復採捕の問題にふれたい。図4に1日平均 入漁者数と1尾当たりの平均採捕回数の関係を示した。設定は前回と同様で、あ る年の産卵期に1年魚5万尾、2年魚5千尾、3年魚5百尾が生息している場合 で、漁具能率0.0002、自然死亡係数0.004、β値0.0001を想定している。反復採 捕の数値化についてはいくつかの考え方ができるが、ここではもっとも単純に捉 え、解禁期間中の累積釣獲尾数を解禁日の生息数で除した値を1尾当たりの平均 採捕回数とし、反復採捕の指標値とした。なお0年魚については累積釣獲尾数を 加入尾数で除した。図4から分かるように入漁者数にほぼ比例して、平均採捕回 数は増加する。

 入漁者が1日平均40人の場合、1、2年魚は解禁期間中に平均1回以上釣獲さ れることが分かる。80人が入漁すると解禁期間中に1尾当たり2回以上反復採捕 されることになる。このモデルの構造上、平均採捕回数は資源尾数には左右され ず、漁具能率や自然死亡係数に変化がなければ毎年同じ値を示す。

 1日の平均入漁者数が80人で、完全にキャッチ&リリ−スが行われる場合のC PUE(1人1日平均釣獲尾数)の推移を図5に示した。初年度は1日1人平均 0年魚 7.4尾、1年魚 3.6尾、2年魚 0.4尾の釣獲成績であるが、10年後には0 年魚24.5尾、1年魚13.8尾、2年魚 2.2尾が釣獲される。

 自然再生産魚がこのくらい釣れれば、今の日本では非常にレベルの高い釣り場 といえよう。解禁期間を 214日と想定しているため、延べ1万7千人がこの釣り 場を利用することになる。入漁料を1日3千円に設定できれば5千百万円の収入 となり、キャッチ&リリ−ス専用釣り場を地域興しの手段として活用することも 十分可能であろう。

 人間にとってキャッチ&リリ−スは利点が多いが、魚の側に立てば毎年2回以 上釣り上げられ気の毒な面もある。魚に及ぼすダメ−ジを最小限にとどめるため の努力も必要であろう。


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