釣り場作りのためのシミュレ−ション入門
第5回/キャッチ&リリ−スの効果
米沢純爾(東京都)
キャッチ&リリ−スは釣り場に魚を増やすための方法として、フライフィッシ ング関係者などから特効薬的な効果が期待されているようである。そこで今回 は、その効果について検討してみたい。但し、前回使用した渓流魚資源モデル VER1.0では、制限サイズ以上の魚は全てキ−プされることを前提としているため キャッチ&リリ−スの効果を検討できない。そこでバ−ジョンアップの作業が必 要となる。
これから作製する改訂版(VER2.0)では新たに、入漁者のうちのリリ−スする 人の割合(リリ−ス率:R)と、リリ−スした魚のうち死亡するものの割合(リ リ−ス死亡率:D)というパラメタ−を導入し、更に釣果をキ−プ尾数K、とリ リ−ス魚を含む釣獲尾数Cに区別して検討できるようにする。釣果や資源量の変 動にはリリ−ス率R、やリリ−ス死亡率D以外に、既に述べたように漁具能率 Q、漁獲努力量X、自然死亡係数Mというパラメタ−が関係しており、それらを 総合した全減少係数Zという値も頻繁に使用される。それらついては、前回まで の内容を復習していただければ幸いである。
ここで釣り場管理に関連し、トラウト・カレンダ−みたいなものを考えると すれば、1年は次の4期に区分できる。
1期)産卵日から解禁日まで:この期間は密漁がないとすれば資源の減少要因 は自然死亡のみである。1期の全減少係数をZ1、日数をt1、生残率を S1のよ うに添字で区別すると次の関係式が得られる。
Z1=M
S1=e−Z1・t1
2期)解禁日から魚が釣獲制限体長に達するまで:この期間は全員がル−ルを 守ると仮定すれば、釣獲魚は全てリリ−スされるため、魚の減少要因はリリ−ス 死亡と自然死亡となる。これを数式化すると、
Z2=Q・X・D+M
S2=e−Z2・t2
なお以前に述べたように、日数tはベルタランフィ−の成長式を用いて算出す る。
3期)制限体長に達してから終漁日まで:この期間は魚をリリ−スする人とキ −プする人に分かれるので、全減少係数と生残率は次のようになる。
Z3=Q・X・D・R+Q・X・(1−R)+M
S3=e−Z3・t3
4期)終漁日から産卵日まで:この期間は1期同様、資源の減少要因は自然死 亡のみである。従って、
Z4=M
S4=e−Z4・t4
なお、「全員が制限体長を守るとか、禁漁期間中に密漁がないなどと考えるの は非現実的!」と憤慨される向きもあろうが、ここではモデルをできるだけシン プルにするため、それらの及ぼす影響についてはふれていないのでご了承いただ きたい。4期のうち、2期と3期については加入時期や制限体長との関連で、年 齢によって期間の長さが異なってくる。その結果、年齢毎に各期間の生残率が異 なるため、A才魚のi期の生残率をSAiのように区別して示す必要がある。シミ ュレ−ション開始からI年目の当初におけるA才魚の資源尾数をN(I,A)、I年 目のリリ−ス魚を含む釣獲尾数をC(I,A)、そのうちのキ−プ尾数をK(I,A)、リ リ−ス死亡尾数をD(I,A)とすると、次の一連の関係式が得られる。
C(I,A)=N(I,A)・SA1・Q・X・{(1-SA2)/Z2 + SA2・(1-SA3)/Z3}
K(I,A)=N(I,A)・SA1・SA2・Q・X・(1-R)・(1-SA3)/Z3
D(I,A)=N(I,A)・SA1・Q・X・D・{(1-SA2)/Z2 + SA2・R・(1-SA3)/Z3}
N(I+1,A+1)=N(I,A)・SA1・SA2・SA3・SA4
なお、加入群については、上式中のN(I,A)の代わりに加入尾数 RC(I)を代入 する。
A才魚の1尾平均産卵数をEAとし、産卵が満As才から寿命となるAd才まで行 われるとすると、リッカ−型の再生産関係を想定すればI年目の産卵数E(I)と 加入尾数 RC(I)は次のようになる。
Ad E(I)=Σ{EA・N(I,A)}/2 As
RC(I)=α・E(I)・e−β・E(I)
以上の式を連動させ反復計算することにより、シミュレ−ションが行われる。 数式アレルギ−の方々にはやや苦痛に感じられるかもしれないが、これでも現実 の現象を相当荒っぽくモデファイした数学モデルとなっている。フライフィッシ ング自体が自然現象をモチ−フとした一種のシミュレ−ションともいえる作業で あり、例えばフライマン諸氏の、フライ・タイイングにかける情熱と研究心、更 にはあの緻密な技術力をもってすれば、この程度の数学モデルに馴染むことは比 較的容易ではないかと思うのだが・・・。それはさておき、反復計算のプログラ ミングに当たってはDOS版のN88Basicを用いた。
以上でモデルの構造に関する説明は終了し、実際にシミュレ−ションを行って みたい。ここではヤマメのように寿命の短い魚が、成長や再生産面で好環境に生 息するケ−スを想定する。具体的には、寿命は3年で成熟まで2年を要するもの とする。ある年の産卵日に1年魚が50,000尾、2年魚が5,000尾、3年魚が500尾 生息している。産卵日は11月1日で、1尾当たり2年魚は400粒、3年魚は1,000 粒の卵を生み、3年魚は産卵後全て死亡する。
再生産に関する係数はα=0.1、β=1.0×10−7である。解禁期間は3月1日から9月30日で、7月1日に0才 魚で加入し、その時点で既に針掛かりサイズに達しているものとする。成長曲線 に関するパラメタ−はL∞=45cm、k=0.0014/日、t0=42日、漁具能率が 0.0002、解禁期間中の1日平均入漁者数が40人、自然死亡係数が 0.004、漁獲制 限体長が10cm、リリ−ス死亡率が0.1である。解禁期間中の体長は0才魚が10〜 15cm、1才魚が21〜25cm、2才魚が31〜34cm程度になる場合を想定している。
これらの設定条件下でリリ−ス率を6段階にした場合の、2年魚の資源尾数を 図1に示した。これからわかるようにリリ−ス率が低いほど資源量は、じり貧傾 向になり、逆にリリ−スが高いと資源量は増加する。この例ではリリース率が7 割前後で資源はほぼ安定状態となり、全員がリリ−スするとすれば魚の数は10年 後に約7倍まで増加する。但し、全員がリリ−スしてもどこまでも資源が増え続 けるわけではなく、7年目ぐらいで頭打ちとなる。1年魚と3年魚についても基 本的な傾向は同様であるが、高齢魚ほどリリ−スの効果は強く現れ、リリ−ス率 10割の場合における10年後の資源尾数の増加率は、1年魚の約4倍に対し3年魚 では約15倍となる。
リリ−ス率が0割の場合と10割の場合のCPUE(1人1日当たり釣獲尾数) の推移を図2、3に示した。ここでいう釣獲尾数はリリ−ス魚を含む釣獲数であ る。CPUEは初年度がリリ−ス率0割で約9尾、10割で13尾と差は少ないが、 10年後には後者が約47尾まで増加するのに対し、前者ではほとんど何も釣れない 状態にまで激減する。
資源の増加を図るための規制として体長制限を採用している釣り場が多いと思 われる。そこで、リリ−スの効果と体長制限の効果を比較してみたい。図4にリ リ−ス率10割の場合と、リリ−ス率0割で制限体長を20〜30cmにした場合の2年 魚の資源尾数の推移を示した。これからわかるように制限体長を30cm以上に引き 上げると、リリ−ス率10割に近い効果が得られるが、25cm程度の制限では資源の 増加にそれほど大きな寄与はできない。前回もふれたように、資源増加を図るに 当たっては大部分の魚に最低1回は産卵させる必要があり、初産サイズが大きい 場合、制限体長をかなり高水準に設定しなければ効果は薄い。
以上、述べてきたようにキャッチ&リリ−スは魚を増やす上で、基本的に有効 な方法であることがわかる。しかし、日本の渓流釣り場には魚をキ−プしたいと いう釣り人も多くいるのが現状であろう。そこで、リリ−ス率とキ−プ尾数の関 連について検討してみる。図5にリリ−ス率と1年魚の1人1日当たりのキ−プ 尾数(以下、KPUEという)の関係を示した。これから分かるように、リリ− ス率を上げると最初はKPUEの値が低くなるが、3、4年後にはそれが逆転 し、リリ−ス率がある程度高い方がKPUEの値も高くなる。この傾向は0年魚 と2年魚についても同様である。これはリリ−スにより資源尾数が増えることか らくる当然の結果ではあるが、キ−プ希望者にとってもリリ−スが大切なことを 示している。
リリ−ス死亡の影響についてもみておきたい。リリ−ス率が10割のケ−スについ て、リリ−ス死亡率を5段階に設定した場合の2年魚における資源尾数の推移を 図6に示した。当然ながらリリ−ス死亡率が高いとリリ−スの効果は失われてい く。1年魚と3年魚についても結果は同様であり、今回のようなケ−スではリリ −ス死亡率を2割以下に抑えることができればキャッチ&リリ−スの効果が期待 される。
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