
―今回の特集のテーマが関東甲信越。ある意味でこの地域には、全国の鱒釣りの“問題点”がわかりやすい形で集約されているのではないかと感じます。そこで、個々の釣り場に関する話ではなく、現在の日本の鱒釣りを概観できるような大きな視点で、座談会を進めていこうと思っています。今、釣り人一人ひとりが何をすべきなのか、何ができるのか? 行政や漁協との関わりを絡めてお話しいただけますでしょうか。
西山 いきなり、難しいテーマだねえ(笑)。では、まずごくごくシンプルな問題から追求していきましょうか?たとえば、釣り場の混雑やマナーの問題などですね。
中沢 そうした話題ならば、具体的に話せるし、もしかしたら会員の人たちが切実に感じている問題を浮き彫りにできるかもしれない。で、そのことと漁協や行政とのかかわりについて話を進めていくとわかりやすいでしょう。
西山 実際、会員からのアンケートはがきを見ても、いわゆる釣り人の“マナー”の問題について書かれているものって多いですよね。
―釣り場のゴミについての意見が特に目立ちます。それ以外ですと、釣り場の混雑の問題。釣りのキャリアの長い人の場合などは、たとえば「白分が釣っているすぐ上流に入ってしまう釣り人がこの頃目立ってきた。なんとかしてほしい」という類いのものが多いようです。
里見 今や釣り人がお互いに譲り合っていく方法を考えていかなければ、どうにもならないという現状のあらわれですかね。釣り人に見合うだけの魚がいないという問題もありますけれど。
西山 確かに、わが国の渓流釣りでは昔から人の上流に入るのはタブーでした。でも、世界的な視野で鱒釣りというものを考えてみると、実は上流に入ろうが下流に入ろうが、あまり問題にされていないのも事実なんです。「先行者」という考え方が日本の渓流釣り独持の閉鎖的な思考なんですよ。
里見 そうかもしれませんね。私も昔からの釣り人なんですが(笑)。
西山 (笑)渓流釣りを長年やっている人達がルール違反と感じることでも、最近始めた人は決してそんなふうに考えませんよね。少々冷静になって考えてみれぱ、これだけ渓流釣り人口が増えた今、「人の前に入らない」なんて、不可能に近いことなんですから。
釣り人同士の「許せる範囲」を考え直す時期なんでしょうね
里見 栄正氏 Photo by Y.OGAWA
里見 そうなると「許せる範囲」というものを、あらためて考え直すべきなんでしょうね。昔の人たちが考えていた距離ではなく、もっと近いけれど真横に入らなければ良しとする…、
一釣り人が意識を変えて、みんなの釣り場という考えのもと、新たなルールを確立していかなければならないわけですね。里見さんがおっしやっていたように互いに譲り合うとか、そういう方向に……。
西山 ええ、そうしないと今の日本の釣り場では、マナーやルールといった考え方自体がもはや成立しませんよ。
中沢 もちろん私もその方向は正しいし、そうすべきだとも思うけれど… 一口にマナーといってもかなり難しい部分があると思うんです。だって河口湖と千曲川では当然違ってくるし、別の場所、たとえば忍野桂川や中禅寺湖でもまったく違う状況があるわけでしょう。そうすると、釣り場のルールの根拠が、釣り人が「場当たり的」に決めていくものにならざるを得ない。
―マナーだけじやダメだと。そうすると何か制度のようなものが必要になるわけですか。
中沢 話は飛びますが、ニューヨーグの公園の中を流れている、いわゆる郡市型の河川があります。私は実際に行ったことがないけれど、そこでは区間を決めて、また午前・午後に分かれて予約制で釣りができる、そういう制度というかシステムが確立されている。ところが日本の釣り場では、とりあえず“制度”みたいなものはあるけれど、実際問題として漁協や行政がほとんどそこまで立ち入ってこない。そのため釣り人まかせになっているというのが現状です。それで釣り人のマナーが悪いといわれてもね。大体、釣り人自身が白分たちのマナーやルールを作るなんて、不可能です。
西山 そのニューヨークのケースは私有地の菅理人がたまたま「ここは何人まで」と決めているだけの話で、それ以外の人気釣り場は、アメリカでもやっぱり1m間隔で並んでいたりしますよ。アラスカでもそうです。
中沢 もちろん河川全体は無理にしても、ある部分に限って人数制限などのシステムを導入することは可能でしよう。ただし、それを釣り人のマナーだけに頼って行うというのは難しい。
西山 外国の場合は、混雑が嫌いな人達がグループを作るんですね。そのグループが混雑しない釣り場を設定するわけですよ。するとその場所ではメンバーしか釣りができないことになる。
中沢 それは、人口密度の問題や河川の用途、さらには河川が私有になり得るかという国の制度の問題にもなりますね。
西山 あと、たとえば人数制限するにしても、膨大な資金が必要になることも忘れてはいけませんね。
一日本で人数制限する釣り場のシステムを作るとすれば、資金はどこから出るのでしょう。やはり漁協が徴収する入漁科でしょうか。
西山 漁協による釣り場の人数制限を想定してみましょうか。今まで流域で1日200人の釣り人が来ていたのを10人にすると、その減った人数分だけ売上を上げなければならないわけです。当然、入漁料もそれだけ高くなる。だから、釣り人がどうしても自分が望むサービスを受けたかったら、そういう釣り場を作らせればいい。漁協と交渉してね。だからマナーとかそういう問題じやなくて、そうやって日々動いていかない限り、やっばり根本的に解決できない問題なんですね。
中沢 漁協にも釣り人へのサービスを行うという意識を持ってもらわなくてはいけない。河口湖漁協などはそうしたサービスの意識をしっかりもった漁協の例ですね。だから、今のところ混雑による釣り人同士のトラブルなど、いろいろ問題はあるにせよ今後改善される可能性もあるでしょう。
―ただ、漁協でそうしたサービスの概念を持っている所は実際に少ないわけよね。
西山 いろいろなことをいっても、やはり採算性の問題ですからね。逆に言えば、採算性の問題さえクリアすれば何とかなるかもしれない。これは関西の話ですが、以前、大勢で行っても釣れる釣り場がほしいという釣り人たちの二一ズを受けて、魚をドンと放流して入漁料を1日3千円を取った漁協がありました。10年前の3千円ですから、そんなに人もたくさん来なくて、広々と釣りができてみんな満足したわけです。つまり、たくさん釣りたい人は高いお金を払えばできるんです。結局、釣り人がそういうことを考え、白ら行動できるかどうかなんですよ。採算性をクリアしたところで、次に問題になるのは最初に言った釣り人の意識です。
「先行者」というのは日本の渓流釣り独特の閉鎖的思考なんです
西山 徹氏 Photo by Y.OGAWA
―釣り場を独占したいという意識?
西山 ええ。キャリアのあるフライフィッシャーなども、たいてい渓流釣りから入ってくるから、けっこう釣り場の占有意識が強い。ところが、たとえば磯釣りにしても場所の荒らしとかはあるけれど、「人が多くてもう我慢できない」と、いうのは聞いたことがありません。ほとんどの釣りでは、他の釣り人の存在を当然のように受け入れているんです。「先行者云々」なんて渓流釣りをする人だけの問題で、ある意味ではあまり良くない習慣です。どこかで割り切って行かないとダメだと思います。
一釣り人の要望を取り入れた結果、年間17万人も釣り人を集めた河口湖は、さまざまな問題を抱えているにせよ、採算性の面ではやはり“成功例”だと思います。しかし、他の漁協に対して、TF会員あるいは一人の釣り人として「こういう釣り場がほしい」と要望していくことで、今後私たちはなんらかの進展を望めるのでしようか。
中沢 河口湖の場合、漁協の仕事をちゃんと経済活動として認識していたわけだけれど、そうではない「おらが川」的な意識で運営している漁協の場合、はなっから相手にしてくれないところが多いですね。
西山 ただ、漁協に具体的な要望を出して釣り場の改善を望むのであれぱ、その前に釣り人が相当突っ込んだ議論をしなければならないでしょう。たとえば、数メートル間隔で並んでやっても釣れればいいのか、それとも人数を制限した方がいいのかをはっきり提示できる形にもっていかなければいけません。そこら辺がまだまとまっていない気がします。
里見 釣り人の意見を「一本化」する必要があるのかどうかという問題もありますよね。むしろ、釣り人の二一ズで釣り場を分けてしまってもいいと思うんですよ。たとえぱ一つの漁協で何河川も管理しているような所は、A川は魚で一杯にしてもらい、B川は人数制限してくださいと。
西山 きめ細かな要望を出すわけですね。
里見 ただですね、「フライフィッシングからこういう要望が出た、他の釣り人からはこういった要望が出た、どっちにするか」ということになると、実際問題として単なる力関係で決まってしまいますよね。私はそうした事を客観的に判断する何か基準なり、機関というものが必要ではないかとも思います。
西山 ぶっちやけた話、それはフライフィッシングはまだ多数派ではないということですよ。だからフライフィッシャーマンがある要望を持っていれば、やっぱりフライフィッシングを広めなければならないんです。多数派にならなければいけないんですよ。相手に認められないのはまだ発展途上で多数派ではないからだ、ということを考慮した方がいいと思います。漁協と交渉する場合も、いろいろと文句を言う前に、フライフィッシングでは釣り場はこうなるんだよという展望をもっとアピールしていかなくてはダメです。そうした地道なステップを踏む必要かあるにもかかわらず、「我々は多数派だ」という錯覚に陥ってしまっているフライフィッシャーマンがけっこういると思うんですよ。
一会員の声でもフライだけではなく、エサ釣りやルアー釣りの人達にも、広く共感を得ないとこの先進めないよ、という意見が聞かれます。
里見 話を戻すことになるかも知れませんが、釣り人の根本的なマナーの悪さが、フライフィッシング人口の増加とともに目立ってきていますね。漁協との交渉の場でも、最初は「フライフィッシャーマンは、マナーがいいですよ」と説明しながら分かってもらうという形でもっていったんですが、最近はそうもいかなくなっています。キャッチ・アンド・リリースだから入漁料を払わない、という人がいるとも聞いています。
西山 最終的に釣り人のマナーに期待してうまくいった試しは世界中どこにもないんですよね。管理する側がきっちり管理しない限り、ダメなんですよ。マナー向上によって何とかなるかもという期待を拾てて、全く違う考え方でモノを考えていくべきですよ。
中沢 一番いいのは、先程里見さんもおっしゃったように「ここはこういう釣り場にします」「ここはこういう規制を設けます」と決定する時に、ある程度指し示せる基準があればということでしょう。そうした基本線を公的機関が早急に作るべきだし、我々釣り人もただ作られるのを待っているだけではいけない...
里見 行政、たとえば県の水産係などは、何かをやらなければいけないということはわかっているんです。ただ、その前に、県庁の中で白分たちの足場を固めなければ何もできないという事情がある。いずれはマナーなどを含めて釣り人になんらかの対応をしなくてはということは分かっているんです。しかし、人数が少ないといった物理的な問題があって身動きが取れないのが現実ですね。また、役所という所の体質として、遊漁者に何も言われなかったから、今まで何もしなかったという側面もあります。逆に何か言われれば、動かなければいけないという意識はあるわけです。しかしながら、人手が足りないと(笑)。
西山 私はここ何年かずっと見てきて、行政サイドからこうあるべきと指針が示されて釣り場が変わっていくことは、ほとんど期待できないだろうと感じているんです。結局、釣り場にいちばん近い人間が決断してやっていかない限り変わらないと思いますよ。それも釣り人がキーマンになる。漁協サイドの創意でこうした方がいいというのもないしね。だから、今後とも行政に数々のアプローチをしていかなくてはならないし、同時に漁協へのアピールもやらなければならないし、そのバランスでしょうね。TFのプロジェクト活動でも重要なのは…。
行政に対して発言するのは個人レベルの意見でもかまわないと思う。
中沢 孝氏 Photo by Y.OGAWA
中沢 漁協のやり方がまずくて、釣り人の集中が激しく、同じ入漁券を買っても土日にはまともに釣りができない… そういう場合には、漁協にも言うべきだけど、行政に言うのも手だと思うんですよ。「お金を払っているのに白分たちは満足できない。こんなに釣り人が多すぎては釣りにならない。何とかしてくれ」ということが人数制限につながるかもしれないし、他の川でも釣りが出来るようにしなければならないとなるかもしれない。そこの所を彼らに考えさせるきっかけともなるわけで、それは個人レベルの「魚が釣れない」といった意見であっても、漁協はそれを受け止めるだけの力はないかもしれないけれど、行政からは案外まともな対応が返ってくることがあると思う。単にあそこの川では魚が釣れないといった話であってもね。
里見 「釣れない」ということに対しても、たとえば10m区間に50人釣り人がいたとか、具体的例で指摘すれば、単に「釣れない」というのとは違ったアピールが出来ると思います。
一貝体的にいうと、TF手帳の巻末にある各都道府県の水産課など担当窓口に電話をしてみることから始めると。
里見 だいたい話には乗ってくれますね。こっちは早々に電話を切りたいのに、とても丁寧に話してくれる(笑)といった感じさえある。ですから、会員一人ひとりができることとして、とりあえず行政機関に電話してみるという手はあると思います。どんな返事が返ってくるかなあという興味でもいいんですけど、電話した結果いろんなことがわかってくるんじやないかな。
中沢 ただ、向こうも仕事をしている人間だということをちゃんとわきまえて話さないと、変なことになる。
西山 その例をあげると、フライをやっている若い人が行政の担当者と話をした場合、往々にして変な奴と思われるんですよね(笑)、気を付けないと。
中沢 基本的には、文句であろうと何であろうと個人レベルの意見でいいわけですけどね。
西山 ただね、実際かなり極端なことをいう人がいるんです。そして、受け取る側で「フライフィッシャーマンは変なことをいうなあ」という悪い印象を与えてしまっているケースが結構あるんですよ。だから、何人かである程度意見調整をして、誰が聞いてもおかしくないような見解を持って話をしないといけないと思います。
里見 交渉の場で他の視点とのバランスを考えながら喋るというのは人切ですよね。私がやっている群馬県の場合、水産課・水産係とフライフィッシャーマンがいい関係でいるのは、向こうがもっと変わった人間と思ったら、ワリとまともだった(笑)と、ある意味ではお褒めの言葉をいただいているわけで、それでうまく付き合えたわけです。そして、今度はルアーの人の話も聞きたい、というふうにだんだん輪が広がっていい方向に向かってきている。
西山 逆に、TFの人間とは話もしたくないという漁協の人も現実にいます。これは、おそらく「絶対にこうあるべきだ」というフライ的思考でつっぱっちゃったんでしょう。
中沢 釣り人から話を持ち込む場合は、やはり何人かでまとまって下調べ的に議論してから、行政なり漁協なりに見解を示すのがベストでしょうね。なぜかというとその見解は個人ではなくグループのものだから。受け取る相手の意識の面で考えても、個人とグループでは随分ちがってくるわけです。ただ地域によっては、TFのメンバーが分散して、仲間が集まれないケースもある。そういう人の場合は個人でもどんどん発言すべきでしよう。バランス感覚を持って自分の中で発言内容を客観的に練り上げていけばいいんです。
Photo by M.HORIUCHI
一漁協に対するアプローチの仕方は、行政とまた違いますよね。
西山ちょっと違いますね。漁協の方が難しいガ、もしれない。冷静に相手の立場やバックグラウンドを見て、ここまでだったら相手も理解出来るなと、粘り強く段階的に主張していく必要があります。先程中沢さんがいった「おらがバ∪的意識の漁協なんて、内部で意識的に変革の意志を持った人がある程度のパーセンテージを占めるまで、まず確実に外部の意見なんて全く聞いてもらえないでしょう。
一どういう漁協が話をきいてくれるのでしょうか?
西山それは実除に按触してみればすぐにわかります。プロジェクトでも、ある
いは個人で交渉する場合でも、その漁協がどういう性格なのかを見極めることが大切ですね。無理なところで粘っても時間のムダだから、可能性のある漁協を見つける努力をしたほうがいい。
中沢それで前例を作って、再度アタックしてみる手もある。他の漁協が注目するようにして、真似してくれることを期待する。それでもまったく興味を持たない漁協もあるでしょう。それはそれで、ある程度割り切ってやるしかないですね。
西山とりあえずは行政の窓口や漁協の人と友達になること、知り合いになることが第一歩。だって面識がないと、まず話さえ聞いてくれないですからね。
里見キャッチ・アンド・リリースは嫌いでも、渓流魚の美しさに感動する感性は誰でも持っていると思います。魚が憎くて釣っている人なんていないわけでしよう。私は何かそんなところから、いろんなアプローチできるのではないかな、って楽観的に考えて〓、る部分もあるんです。
西山我々は楽しい釣り場を考えていくわけだから、焦ってばかりじやツライし
ね。ある程度希望を持ってコツコツやっていくしかない。TFがやらなくてはならないことって、いろんな所で何度も〓、っているけどほんとうに地道な作業の積み重ねなんですよ。
中沢私も、西fU!さんも、里兄さんも、この場でそれぞれ自分の体験から訂訊をしているだけで、「こうすればいい」っていうことを言っているのではではないということを、最後にいっておきたいですね。3人とも同じルールに沿って発言しているわけではないでしょう。だから、会員の人達にも白分たちには自分たちなりの方法があるわけです。それを、ぜひわかってもらいたいですね。この3人は
まだ探っている最中なんだと…。
里見わかってもらえたんでしょうか?(笑)
西山会員から「わからないぞ」「もっと、詳しく話せ」という意兄が集まったら、この統編をやりましょう(笑)。
一その時は、ぜひお願いします。
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