グレート・アバコのボーンフィッシング(第1回)

−Yet Another Travel To Abaco(YATTA)−




ダーク・エンジェル(VECTIS GX-1)/ミノルタにて撮影

Bonefishing

海のフライフィッシングが世界的なブームとなりつつある。
フライフィッシング先進国の米国では、異常なほどの人気を集めている。
米国には私の知るだけでも隔月刊の専門誌2誌があり、一般のフライフィッシング専門誌や ソルトウォータフィッシング専門誌などには、必ずといってもいいほど、各号にソルトウォータ・フライフィッシング の記事が掲載される。

このソルトウォータ・フライフィッシングの対象魚には、ストライプドバス、ボーンフィッシュ、レッド、スヌーク、 ターポン、パーミット、ブルース、コルビナなどの浅い海の対象魚とマーリン、セイルフィッシュ、シイラ、コビア などの沖合いで狙う魚が人気を集めている。

そのなかでも、ストライプドバスと並んで、ダントツNo.1の人気を集めているのがボーンフィッシュだ。
ソルトウォータ・フライフィッシングの巨人、かのレフティー・クレー大先生も、人生残り1回しか釣りができないとすれば ボーンフィッシュを狙ってバハマへ行く、と公言する。

ボーンフィッシュ
上司や妻の罵りを忘れ、バハマのグレート・アバコで7日間、このボーンフィッシィングに興じた。
気楽な中年男二人の釣行記を3回にわたって、ご紹介させていただく。
ゲストハウスのテラスにて
Bahamas

ボーンフィッシュは大西洋、太平洋の赤道周辺を中心に、かなり広い海域に生息する。
しかし、釣り場として有名なのは、フロリダ・キーズ、カリブ海の島々、クリスマス島など、 熱狂的な米国の釣り人によって開発されたところばかり。
そのためかどうか、米国から行くのには便利だが、日本からはどこも遠い。
どこか、もっと日本の近くに釣り場があれば、と心から思う。
ボーンフィッシュは、もちろんスピン・タックルでも狙うことができる。
むしろ、その方が簡単に釣れるそうだが、今日ではフライの対象魚としてのほうが有名だ。

さてボーンフィッシングのメッカといえば何処になるのだろうか?
それはバハマだ。
こんなことを言うと、
「何言ってんだよ、フロリダキーズに決まってっじゃねーか。ボーンフィシング発祥の地だぜ!」
「何、とろくすゃーことゆうとりゃーすか、クリスマス島に決まっとるがね。ハヤシもあるでよ!」
「あほぬかせ、ユカタンに決まとるがな。ごっつ釣れんねど。ユカタンやアセションや! アセとションベとちゃうぞ! ごたごたぬかしとったら簀巻きにして淀川に捨ててまうど!ボケ!」
など、様々なご意見、お叱りの声が聞こえてくるような気もする。
がしかし、私はあえて、「ボーンフィシングのメッカはバハマ。バハマを置いて他はない!」とこう言い張りたい。
何故か?
ボーンフイッシュの数、
アベレージサイズ(4〜6lb.)、
ボート等の設備やガイドのレベル、
釣り場の種類と数の豊富さ。
私の知る限りでは、この何れをとっても申し分のないのがバハマだ。
なにしろ私はバハマへしか行ったことがない。
他を知らないので、私の知る限りにおいてはそうだ、と断言できる。

バハマは、無人の小島を含めると2千数百もの島々が連なる群島である。
だから、正確にはバハマ諸島というべきだろう。
正式な国名は"Commonwealth Of The Bahamas"。
この2千数百ある島のうち、人が住まう島が23ある。
そのほとんどすべての島でボーンフィシュを見つけるチャンスがあるそうだ。
しかし一般的には、ボーンフィシュを狙うフライフィシャマンは、ボーンフィシャー用宿泊パッケージのあるアンドロス、 ベリーアイランド、エルーセラ、エズーマ、ウォーカーキー、ディープウォータ・キーそしてアバコなどに集中する。
これらの有名な釣り場には、もちろんボーンフィシュがたくさんいるわけだが、人々が集まる本当の理由は、

フライフィッシングをよく知る優秀で経験豊富なガイドが沢山いて、
フロリダばりのフラットフィシング専用スキフボートを備えるところが多く、
米国人経営で、清潔で快適な部屋を備えた宿泊施設があり、
米国からのアクセスに便利で、
数え切れないほどの釣り場が豊富なうえ、
ボーンフィッシュだけでなく、場所と運さえよければパーミットやターポンもターゲットとなること、

などだ。

参考文献:
"Bonefishing With A Fly" by Randall Kaufmann
Western Fisherman's Press (1992)


バハマの10セント硬貨のなかで2匹のボーンフィシュが泳いでいる。
ことほどさように、バハマはボーンフィシュの保護にまじめにとりくんでいる。
ボーンフィッシュを狙う釣り人が、現地の経済に貴重な外貨をもたらしてくれるからだ。
もともとこのあたりでは、ボーンフィッシュは食用に供されていたそうだが、今では魚網を使用したボーンフィッシュ漁は 全面禁止。
獲っていいのは釣り針を使う場合だけとなっている。
そのためか、バハマには大型のボーンフィッシュが多く、IGFAの記録魚の多くもバハマでキャッチされている。

It Just Keeps Getting Better

マイアミから1時間強でグレート・アバコのマーシュハーバ「国際」空港へ到着。
入国審査官 兼 税関審査員が約1名のみ。
通関時にカラー写真を印刷した検査済み証をバッグに張る。
この検査済み証には、ハデな衣装の女性が笑顔で歌い踊る写真が印刷されている。
なかに"Bahamas−It just keeps getting better"と印刷されていた。
その意味を後々思い知ることになる。

マーシュハーバ空港からわずかな距離のところに、"The Great Abaco Bonefishing Club"という有名なロッジがある。
おそらく、この「ロッジ」では、皆が夢見る快適な釣り旅が約束されていることだろう。
ラムベースのカクテルでの出迎え、最新型のHews製スキフボート、プール付きのコッテージ、天井にはシーリング・ファン. ..(本当にそうかどうかは知りません)。
しかし、我々が釣行の基地として選らんだのは、このロッジをやり過ごして、さらに車を30分程南に走らせた、 島の南端近くにあるサンディポイントという名の小さな漁村。
そのまたはずれの船着き場の近くにある"Pete&Gay"という、小さな民宿だった。


空港には、プロレスラーのブッチャーのような体型と風貌の男がピックアップ・トラックで我々を迎えにきていた。
顔つき目つきが恐い。
およそ、観光業者の態度ではない。
レンタカー屋のコーテシーバスの運転手でももっと愛想が良い。

まー仕方ない、送り迎えの担当者にホスピタリティを求めるのは、旅行者の勝手が過ぎる。と思い直し、車に乗り込む。
このブッチャー氏、宿へ向かう道すがら、ハンドル片手にワインを飲む。
勇気を振り絞って、宿のことや、オーナーのStanley White氏のことなどを聞く。
どうも話がかみ合わない。
しばらくして、このブッチャー氏自身がStanley White氏であることが判った。
その時、今まで青く晴れていた空に、暗雲が立ち込めて雨が降り出した。
これは本当の話。

Stanley White氏と筆者

さて、このグレートアバコ島は、フロリダ州のイーストパームビーチから西に約280キロの距離。
バハマ諸島の北西の端に位置し、バハマ諸島中2番目に大きい島だ。
人口は周辺の島々をあわせて1万人ほど。
サンディポイントに至っては、数百人ほどしか暮らしていない。

←民宿"Pete&Gay"

宿には、二人部屋が10室。共同のシャワー/トイレが4つのみ。
各部屋は、四畳半ほどの広さで、小さなベッドが二つ並び、スーツケースを二つひろげる余地はない。
シャワーは水圧不足で僅かな水がしたたり落ちる。
カランとシャワーの切り替えノブはもげ落ちてしまっているので、露出したボルトを片手で引きながらシャワーを使う。
トイレのタンクの水はなかなか溜まらない。
エアコンは、枕の近くで轟音を響かせる。
チェストの引き出しは、なかなか引き出せない。
日が暮れると蚊の猛攻が始まる。
深夜には犬が徒党を組み往来を闊歩し、一晩中吠えたてる。
もう言えばきりがない。

"It Just Keeps Getting Better!"とはこのことか?


到着した日から釣りを始める。
ボーンフィッシュの群れがテイリングするのをそこかしこに見える。
信じられない。
ところが、これが異常なほどスプーキー。
なかなかRUNさせられない。

釣りが不調に終わった二日目の夜、友人は、
「もーええ、オレ帰るわ!」
「マイアミかキーウェストで、シャワーざんまいの休暇を過ごすほうがエエワ。」
などと言い出す。
「キーでターポン狙うのもええかな...」
我が境遇を思い、切なくなり、同意しかける。
↑あー、釣れない
業を煮やした友人は、かのStanley氏に苦情と希望をいいつのる。
その結果、いろいろな問題がウソのように、解決していく。
水圧は回復し、シャワーは幾筋かの糸状に流れ出はじめた。
ポタポタではない。チョロチョロくらいは出る。
部屋のチェストも新品に置き換わった。
虫除けのスプレーまで支給された。

これぐらいのこと、と思われるかもしれないが、これがとても嬉しい。
戦後の荒廃からの復興が、わずか2日ほどの間にあったようなものだ。
エアコンは毎日元気よく唸り、水圧も二日後には元に戻ってしまったが、4日目以降、 釣りの状況がグッと良くなったこともあり、俄然我々は元気を取り戻した。
「ほんまに"It Just Keeps Getting Better!"やな。」
と笑いながら話す余裕を取戻した。

続 編

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