ある日、賀田の里の爺さまと婆さまの家に
、一人の男がやってきた。婆さまはその顔を
見て、腰を抜かさんばかりに驚いた。
「爺さま、太郎が帰ってきた。太郎じゃ、太
郎じゃ」
爺さまと婆さまが落ち着くと、太郎は嵐の
日の遭難のことや、亀に助けられて竜宮で暮
らしていたことなどを簡単に話した。そして
、太郎がみやげの玉手箱の一つから竜宮の着
物を取り出して、着て見せた。りっぱには違
いなかったが、息子がかなり老けて見えた。
頭に被った金髪の鬘のせいかもしれない。そ
れは、桃太郎の髪の色と同じであった。さら
に、太郎の話によると、爺さまと婆さまが育
てた桃太郎様は、実は竜宮の身分の高いお方
の孫であることが分かった。太郎はその桃太
郎様を迎えに来たのである。爺さまと婆さま
は、この話にたいそう驚いたし、不思議な縁
というものを感じた。それに、息子がすぐに
また竜宮に旅立たなければならないのを知り
、悲しみもした。二、三年は帰れないとのこ
とであったが、竜宮にいる息子の命の恩人の
ことや桃太郎様の幸せを考えて、快く息子の
旅立ちを見送ることにした。浦島の神様に息
子の無事を祈り続け、その願いが叶えられた
ことに本当に感謝していた爺さまと婆さまは
、旅立つ息子に浦島のお守り袋を持たせるの
を忘れなかった。
それから何日か経って、由良の港の沖に停
泊していた船が錨をあげた。船上には、桃太
郎、犬、雉、鬼が島の鬼の生き残り、それに
案内役の太郎の姿があった。その時の桃太郎
は、浦島のお守り袋を首に掛け、婆さまの吉
備団子の袋を腰にぶら下げていたと伝えられ
ている。今は昔の話である。しかし、彼らに
とっては、竜宮への長い船旅の始まりであっ
た。
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